第13話 天使学校時代と出会い

どうも、レミリエルです。


 今私は定期的にエリルと訪れるカフェで、ブラックコーヒーを嗜みながら天使学校時代の思い出話に耽っています。


 既に一時間ほど話し込んでしまっているので「そろそろ帰れよ」という店員さんの目線を感じてしまったので、お伝え出来ることは少ないかも知れませんがご了承ください。


「レミ、次はなんの話しよっか」



「んー、何度も話していますが、いつもここまで話し込むとだいたい出会いまで遡りがちですよね」



 天界時代の思い出話は人間界に来てから、一緒に遊ぶ度にしている気がします。あまりいい思い出もないのによくもまあ毎回飽きないなと自分でも思います。


「私達この話してよく飽きないよねぇ。何回目だっけ?」



「私も同じこと思ってました」


 エリルもそう思っていたようですがお互い話をやめる気はなく、話は過去へと遡っていきます。



 確か、あれは私が天使学校をサボって本を買いに外をぶらついていた時の事です。



 当時の私は、「学校がある時間帯ならば外に出ても知人に会う事はない」という理由でよく学校をおサボりしている時間に本を買いに行っていました。ちなみに学校をサボるような悪い子天使は私だけでした。



「いらっしゃいませ〜」


 適当に欲しかった本を数冊手に取り、レジに行くのを躊躇った後、「一生ここでこうしている気ですか!」と勇気をだしてお会計を済ませ、店の外に出た時に事件は起こりました。



 思い返せば、私が外をぶらついていたのは昼時。この時間に外に出るのは珍しかったのですが、恐らくあの日、昼時に、本屋の周りを彷徨っていなかったならエリルと友人になる事はなかったでしょう。



「あれ、名前なんだっけ。ねぇ、こんな所で何してるの?」



「え⋯⋯」


 いきなり呼び止めらた事でびくりと肩を震わせ、驚いて声のする方へ振り向くとエリルが立っていました。


 当時のエリルは髪が今とは違い短く、首元で綺麗に切り揃えられていました。髪を伸ばし始めたのは私と出会った後の話です。


「今って学校の時間だよね?なんで本屋さんにいたの?」



「あ、いや。それはその⋯⋯」


 お、怒られる⋯⋯!!怖い!


 当時の私は、たまに学校にいくといつも活発で友達とケラケラ笑いあってるエリルに、自分とは絶対に関わらない存在なんだぁと思っている節があったので、陰の者として単純に恐怖で言い返せませんでした。


 今だったら、お前もなんでいるんだよ。学校じゃないんですか?と小突いてやりたいところです。


「私はお弁当忘れたのに気付いたから学校抜け出して一回家にお弁当取りに戻るところ!」



「そ、そうなんですか。では私はこれで」


 怒られなかった事に胸を撫で下ろしつつも、こちらの話題を切り出される前に立ち去ろうと頭を垂れた所、「普段あんまり会わないんだし遊ぼうよ」と呼び止められました。



 思い出した。当時からグイグイ来るんでした。


「えぇ、あの、学校は?」


「今日はもう気分じゃないからいいかな。君とも遊んでみたいし」


「私と遊んでもあまり楽しくはないと思いますが」


「そんな事ないって!それでごめん、名前なんだっけ」


 この辺りで「いや、覚えてねーんですか」と内心毒突いたのを覚えています。


「レミリエルです⋯⋯」


「あっ!そうだった。」


「はい⋯⋯」


 暫くの沈黙の後、彼女が「普段本読まないから、私でも読めそうなの知らないかな?」と言うので何冊か読みやすい本をオススメした所、全て「難しい!分からん!」と却下されました。



「えぇ、かなり読みやすい物だと思ったのですが」


「そうなのぉ?私バカだからさー」



 児童向けの本すら難しいで切り捨てるなんて相当バカだと思いますなんて事は、口が裂けても言えなかったので「そんな事ないと思いますよー」と愛想笑いで返しました。



「レミって普段学校来ないけど何してるの?」



「まあ、読書したり寝たり。引きこもってます」



「そっかぁ。学校嫌い?」



「あんまり人と関わるのが得意ではないので。上手くお喋りもできないですし」



「でも私とはお喋りできるとよね?だから私達仲良くなれるかもね」



 喋れて、るんでしょうか。まあそう言ってくれるのなら喋れていると捉えておきましょう。



「ぐ〜」


「え、何の音ですか?」


「お腹の音だよ。お腹空いた」


「何か食べましょうか?」



 都合良く、私たちの視界の先にカフェがありました。


「お!アソコのカフェ行ってみたかったんだよね」


「決まりですね。では行きましょうか」


 私達の意見は直ぐに合致し、カフェに入店しました。思い返せば、この頃からよくカフェに行っていました。



「ご注文は何になされますか?」


「えっと、エンジェルジェルジェルサンドを五つ」


 え、そんなに食べるんですか?


「私は、ブラックコーヒーとその、エンジェルジェルジェルサンド一つで」



 ただでさえ店員さんとの会話は苦手なのに何なんですかエンジェルジェルジェルサンドって。


 ネーミングセンス、バグりすぎでは。


「お待たせしましたー」


「うん、美味しい〜」


 目の前に積まれた沢山のサンドイッチに勢いよく手をつけていくエリルさん。なんというか、もっと品のある食べ方をして欲しいです。


「レミ、私ここのカフェ気に入ったよ」



「それは良かったです。私もここの味大好きです」


 話終えると、また直ぐに食べ始めるあたり相当お腹が空いていたんだなぁと察します。


 お行儀は悪いですが、目の前でこうも美味しそうに食べられると流石に私も食が進みます。



「レミいい食べっぷり〜」


「それはこちらの台詞ですよ」


 私が注文したメニューを食べ終えると同時に、彼女も食べ終わったようです。


 あんなに頼んでいたのに食べ終わるタイミングが同じですと⋯⋯?



「じゃ、そろそろ出ようか」


 お互い食べ終わったのと、そろそろ他のお客も増えてきたようなので立ち去り時でしょう。


 私たちはお店を出るとそのまま帰る流れになりました。まだ学校自体はやっていますが彼女も戻って授業を受ける気にはならないそうで、二人で帰路につきました。



 初めは話し掛けられてビビりましたが、話してみると悪い方ではなさそうです。まぁ天使に悪い方なんていないんですけど。


 一日だけの関係でしょうけど、悪い気はしませんでしたね。


「じゃあ私の家こっちだから」



「はい。さようなら」


 別れの挨拶を告げると、直ぐに走り去ってしまった彼女の背中に暫く手を振ります。



 私が稀に学校に顔を出しても、彼女には彼女の友達が沢山いるので関わり合うのはこれでほぼ最後でしょう。



「と、その時私は思ってました」


「え、そんな事思ってたの?」


 話は現代に戻ります。


「私は明日からもレミとガンガン遊んでいく仲になると思ってたよ」


「そうなんですか。まあ次の日から定期的に学校をサボって家に遊びに来られた時は驚きました」



「だってレミ、全然学校来ないから家まで行かないと遊べないじゃん」



「せめて放課後にきてくださいよ」



「あはは、その手があったか」


 話を過去に戻します。


 あれから何度も私の家を訪ねてきて、一緒に遊ぶうちに私達の仲は確かな物へとなっていきました。


 ただ、一緒に遊んでいる楽しさと、学校をサボって私の家に来るエリルに対しての罪悪感もありました。


 私が引きこもっているせいでエリルに気を使わせているんじゃないか、サボらせてしまっているんじゃないかと。


「あの、エリル⋯⋯」



 私の浮かない顔を見て何かを察したのか、先にエリルが言葉を発しました。


「その、迷惑だったかな?」


「え」


「なんというか、最近暗いなって思ってて。私バカだからあんまり気付けなかったんだけどさ」


「いや、そういう訳じゃ⋯⋯」


 口篭る私を見て「そういうこと」と感じたのかエリルは「ごめんね」と無理に作ったのが見え透いた笑みを浮かべて立ち上がりました。


 違うんです。そういう意味じゃ⋯⋯。


 違うと言う事を伝えきれないまま、エリルはその場から去ろうとしてしまいます。


 待って欲しいのに、誤解を解きたいのに上手い言葉が出てこなくて引き止めることすらできない自分に嫌気が差します。



 エリルは私にとって唯一の友人で、絶対に仲を壊したくない天使です。



 なので、思い切って感情のままに行動してみました。


 玄関先まで進んだエリルに慌てて追い付き、勢い良く抱きついてエリルの歩みを止めました。



「ど、どうしたの?」


 うるさいです。勝手に勘違いして帰ろうとしないでください。


「エリルがいないと⋯⋯寂しいです」



「レミ、だってさ」


「うるさいです。迷惑なんかじゃありませんから、勘違いしないでください」


「勝手にいなくなられる方が迷惑です」


 思いの丈を全て伝えたところで、話は現代に戻ります。


「いやー、あの時のレミは素直で可愛かったなぁ」


「まるで今が可愛くないみたいじゃないですか」


 自分の事を可愛いと思った試しはないですが。


「今も充分可愛いよ?毒味が強くなったけどね」


 カフェから出て帰路に着きながら頭を撫でられます。確かにあの一件以来、素でエリルにあたれるようになったんでしたっけ。


「レミ、今日は私の宿泊まりなよ」


「宿代を浮かすために泊まってあげます」


「泊まってくれる理由が悲しすぎる」


 冗談交じりに、笑いつつ。これからも良い友人でいられそうです。







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