第3話 妻、ライバル現る

「で、何で泉ちゃんがうちにいるの?」


 この日僕が家に帰ると、何故か妻と大学の後輩、泉が家にいた。


「あ、お邪魔してます先輩。こちらの悪……いえ、自称奥さんが先輩と結婚していると聞いて話を聞いてまして」

「俊平~この子が強引に迫って来て、全然出て行ってくれないの」

「何を言うか! この大悪党が! 先輩の事洗脳してんじゃないのかって疑ってるのよ」

「大悪党? 洗脳?」


 とすぐに妻が、泉の口を両手で塞ぎ部屋の奥へと連れて行き何故か小声で話しだす。

 あ~なるほど。

 泉ちゃんは妻の正体を知って、俺を心配しに来てくれたのか。

 でもどこで知ったんだ?

 と僕が首を傾げていると、かすかに妻と泉の言い合いが聞こえて来て謎が解ける。

 なるほど今日の戦闘で、互いに顔を見たのか。

 それで同じ地区に住んでいるからバッタリ会い、今の状況に至る感じか。


「アンタ、正体隠してるわけ? それじゃやっぱり、先輩に変な事したんでしょ」

「してないって言ってんだろうが小娘! 俊平とは純粋に恋愛で結婚してるの! そ、それに告白は向こうからだし……」

「はぁ~? 何妄想してるのよ大幹部の癖に、乙女か!」

「あっ、もしかして嫉妬ですか? 私と俊平に嫉妬かな~イエローとあろう者が?」


 何やら、互いに変なマウントを取り始めたので僕はひとまず言い合いを止め、お茶を飲んで落ち着いてもらった。


「さてと、それで泉ちゃんはエリナを本当に妻だと疑ってるって事ね?」

「ま、まぁ……そうです。その、最近この辺で似た事件がありましたし。後、先輩が結婚しているとは聞いていませんでしたし……」

「俊平がアンタみたいな子供に言う訳ないじゃん」


 と妻がボソッと呟くと泉は勢いよく妻の方を向き、睨み合いが始まる。


「とりあえず、君達の相性が良くないのは分かったよ。それを踏まえてまず泉ちゃん、言っていなかったのが原因だけども僕はエリナと結婚している。これは嘘でも何でもなく、役所で正式に届け出を出しているんだ」


 僕は携帯でその時の写真を見せると、泉は渋々納得すると妻は何故か勝ち誇った顔で泉を見ていた。


「それで次はエリナ。君も対抗する様に相手を挑発する言葉とかを言うんじゃない。いいね」

「「はい……すいませんでした」」


 2人は反省した様子を見せたので、僕は軽く手を叩き2人の視線を向かせた。


「それじゃ、この話はおしまい。これからはむやみに喧嘩しない様に。それと時間も遅いし泉ちゃんも良かったらご飯食べて行って」

「え? いいんですか?」

「ご近所さん付き合いも大切な事だし」


 そう言って僕が立ち上がり台所へと向かうと、泉がボソッと呟いた。


「あっ、やっぱり風谷先輩が家事とかやってるんだ」


 すると妻がその言葉を聞き逃さず、小声で噛みつく。


「それはどう言う意味? もしかして、私には出来ないとでも?」

「あれ? そう聞こえましたか? そう受け取ると言う事は、図星なんでしょうね。まぁ、もし私だったら先輩と一緒に作りますけどね」


 そこで再び2人のバトルが勃発すると、突然2人が立ち上がり台所の方を向く。


「そこまで言うなら、料理勝負だ! 俊平に美味しいと言われた方が勝ちでどう!」

「いいでしょう! もちろん受けて立ちますよ! 結果は目に見えていますけどね!」

「ちょっと2人共? いきなりどうしたの?」


 僕はいきなりの事に理解が追い付かずにいたが、2人は勝手に話を進め何故か2人の料理勝負の判定人にされてしまう。


「作る物は貴方に選ばせてあげますよ、

「あら、圧勝してもいいという事かしら?」

「その言葉、そのまま返しますよ」

「そこまで言うなら、オムライス勝負よ!」


 そして2人は狭い台所を交互に使い、互いにオムライスを作り上げ僕の前に2つの皿が並んだ。

 完成するまで僕は目隠しをされ、どっちがどっちのオムライスを作ったかは分からなかったが、どちらも個性的なオムライスであった。

 ちなみに目隠し中、何度か台所から悲鳴や何かを落とす音が聞こえていたが、それは聞かなかった事にして口には出さなかった。

 そして2人はと言うと、何故か互いに少し俯いた状態で机を挟み反対側に立っていた。


 はぁ~まぁ、そう言う事になるよね……互いに料理が苦手なのに何故、料理勝負なんかしてるんだか。

 そう、妻も泉ちゃんも料理経験が乏しく上手いと言えるレベルではないと僕は知っていた。

 僕はそんな事を考えながらも、スプーンを持ちそれぞれのオムライスを食べた。

 こっちは混ぜたケチャップ量が多いな、それでこっちは何か少ししょっぱい?

 と、食べるごとに独特な味がしたが僕はどちらのオムライスも全て食べきった。


「俊平……」

「先輩……」


 2人は少し驚いた顔で僕の方を見ていた。

 彼女達はまさかどちらとも完食するとは思っていなかったのであった。


「2人共、結果は引き分けで。理由は言わなくても分かるよね?」


 僕が優しく2人に微笑むと、2人は「はい」と発し小さく頷いた。

 そして僕は2人を椅子に座らせ、台所で2人にオムライスと軽い一品を作って食べさせた。

 その後軽く雑談した後、泉は帰宅し妻と2人きりの時間が始まった。


「俊平、その、ごめん。何か勝手に色々やったり喧嘩したりして……」

「いいよ。最後の方は楽しかったし」

「俊平~」


 そう言って妻は僕の方に倒れる様に抱きついて来た。

 僕は優しく頭を撫でた。

 ダメだな~僕は…妻に甘すぎるな。

 でも、今日はいいか。

 何気に、妻の初手料理を食べられたし。

 そうしてまた何気ない1日が終わるのだった。

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