幸せの味
芽里 武
プロローグ
そこは広い廊下だった。床は、白を基調とした幾何学的な模様が控えめに施されている。分離帯には、人が上を渡れるほどの黒い大きな線が引かれていた。壁は白く、高級感の漂うメタリックに統一されている。
黒のブレザーと黒のスラックス、ネクタイは学校指定の青色、IDAスクールの男子生徒が二人、廊下で立ち話をしている。
「三年前にエルジオン医大の生徒が消えたって騒ぎがあっただろ」
「あったあった。その生徒って有名な教授とモメてて、その教授が消したんじゃないかって噂になったやつだよな」
「そう。それで最近の話なんだけど、地質調査のために地上に出していたドローンが、土と一緒に妙な物を持ち帰ったって噂になってんだよ。知ってるか?」
「いいや」
「採取してきた土の中からメモが出てきたってよ。約七百年以上前の地表から出てきたそのメモには、三年前に消えた医大生が、当時研究していた薬の材料が書かれていたんだって」
「ええ? 確かその薬って、五年前の論文を元にした万能薬って噂じゃなかったっけ。昔から存在してたってこと?」
「いいや、五年前に発表された論文も、元にしている知識はごく最近のものの応用らしいのさ。七百年前に思いつくような代物でもないし、そもそもその材料自体、今の施設と技術を使わないと作れないものばかりなのさ」
「材料自体、自然に存在しないものをわざわざメモしていたってこと?」
「そうだよ。おかしいだろ?」
廊下に予鈴が鳴り響く。二人の生徒は、大きな半円形の門へ向かった。生徒たちが、門の前まで来ると、中央に校章のエンブレムが大きく飾られた、空色の半円形のドアが、プシューという音と共に、自動的に上へとスライドした。二人の生徒はその門をくぐり、教室へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます