第32話 偽造兵と怒涛の展開
ようやく区切りがついたわね。まあ、まだこの通路の先に逃げた奴が居るかもしれないから、一緒に居る軍人の一部は先に進んでもらうことになると思うけど、私たちはこれで一旦は引き上げることになると思う。
本当、相手を馬鹿にするとか貶すのは苦手だわ。あの令嬢を追い込んでいたつもりだけどどうだったかしら。一応精神的にダメージを与えられていたと思うけど、思い返すと微妙じゃない? もっと思いっきり詰った方が良かったのかしらね。
……うん。上手くできるイメージは湧かないから、たぶんあれ以上には出来そうにない。それに少し馬鹿にするのならそこまでじゃないのだけれど、相手を貶したり罵ったりするのって精神的に疲れる。
「とりあえず、ここに居ても意味はないですから戻りましょうか」
「そうだな」
オルセア皇子に声を掛けると同じように考えていたのか直ぐに同意して残っていた軍人を引き連れて隠し通路から出ることになった。
私たちが隠し通路から戻ったころには既に王城内の制圧は凡そ終わっているようだった。周囲を確認してから隠し通路への扉があった部屋から出る。
「どうやら、殆ど制圧は終わっているみたいだな。後はまだ逃げている重役どもを確保して終わりか? 他に何か問題が出ていたりしたか」
オルセア皇子はそう言って周りに来ていた情報伝達要員の軍人に問いかけた。
「いえ、特に問題は起きていません。ただ真偽はわかりませんが、一部でこちら側に敵側の兵士が紛れ込んでいる可能性がある、と言う報告があります」
「わかった。それに関しては他の者にも注意を促すように」
「はっ!」
紛れ込んでいるって、何でわかったのかしら。問題は起きていないらしいから被害があったとかじゃないだろうし、もしかして軍人から装備をはぎ取ってそれを着ているとか?
戦いの最中だし、倒れた軍人から装備をはぎ取ること自体そう難しくはないかもしれない。それに可能性があると言うことは装備をはぎ取られた人が見つかったとかなのかも。
「一旦、城から出よう。ここに居てもやれることは無いだろうし、私たちの目的は既に達している」
「そうですね。いつまでもここに居るのは他の軍人の方の邪魔にもなりますし」
うん。さっきから横を通っていく軍人たちが皇子に対して毎回会釈して行っているからね。さすがに戦い終盤とは言え皇子の近くを通過するのに無視は出来ないってことなのだろうけど。
そうして私たちは来た道を戻るように城から出て、その前に広がっている元の華やかさが見る影もない庭園で一旦足を止めた。
庭園には大まかに戦いの際に負傷した軍人が手当てを受けている場所と、確保した腐敗政権に関わっていた人が集められている場所の2つに分けられていた。
確保した政権側の人はそんなに多くないわね。もしかして別に確保している場所があるのかもしれない。ああ、口裏合わせ対策かもしれない。
「皇子!」
事態が落ち着いている庭園に出たことで気を抜いている所に1人の軍人がそう言って駆け寄って来た。
急いでいるから何かあったのかしら。と思っているとどうも軍人の様子がおかしい。何で剣に手をかけて…。
って、まさかさっき言っていた奴!? まさかここでフラグ回収とかやめてよ!
あ、これ躱しきれないわ。ん? なんかデジャヴな気がするけれど気のせい?
軍人もどきが剣を鞘から抜いて、走ってきた勢いでそのまま私に向かって振り下ろしている。
あぁ、完全には無理だけど、とりあえず致命傷にならない様に躱して……。
でもこれ、ここで私が死んだ方が後々上手くいくんじゃないかしら。前にも考えたけれどたぶんこのまま私が生きていても今後の王政の足枷にしかならないし。
だったらこのまま切られて死んだ方がいい…、
「ミリアッ!?」
声を掛けられてこの兵士が近づいて来ていたのは気付いていたようだけれど、いきなり襲い掛かって来るとは想定していなかったらしく、皇子は慌てた表情で私の前に割り込んだ。
金属同士がぶつかり鈍い音が響いた。
いえ、待って。今オルセア皇子、武器構えていた? と言うか顔がこっちに向いていると言うことは剣で防いだどころか、盾で防御もしていないのでは!?
「皇子!?」
近くに居た軍人たちから悲鳴が上がる。
周りに居た人たちも、まさかこんなに人が居るところで奇襲を仕掛けて来るとは一切思っていなかったため、場の空気が一変した。
いや、それどころじゃない。咄嗟に庇ってくれたとは言え、いくら防具を付けているからと言って剣を体で受け止めたら最悪怪我では済まない。
「皇子、何で!」
「何でじゃない! 何で君は自分の命を軽く見ているんだ!」
「でも」
皇子の手が私の両頬を優しく包む。そして皇子は悲しそうな表情で口を開いた。
「でもじゃない。そう言うのは止めてくれ。私はミリアが死ぬのも傷つく姿もみたくはないんだ」
「ですが、私がここで居なくなった方が後々綺麗に収まるでしょう? 私が生きていれば国の弱みになるかもしれませんから、だったらここで死んだ方が都合が良いのです」
「どうしてそんなことを言うんだ。もしかして売国の件か」
「そうですよ。ただ、これに関しては皇子がどうこうしたからと言うのは関係ありません。私が自ら考えた上で結論付けたものです」
「そんなことは気にしなくと良いだろう!」
「気にします! 私は元より国のために生きろと教えられて育ちました。ですから国の不利益になるようなことは一切したくはないのです!」
気にしなくていい。そう言ってくれるのは嬉しい。でも、国を動かしていく以上そんなことは言っていられなくなることは高確率で起こるはずだ。だったら、最初からリスクとなる部分は排除しておくに越したことは無いはずだ。
「不利益がなんだ! そんなもの俺がどうにかする! だからミリアは自分のために生きて欲しいんだ!」
「え、はい?! いや、そう簡単に出来る物じゃないでしょう皇子!?」
どうにかするって、簡単に言うけれど実際はかなり難しいと思うわよ。それに、俺って、もしかして皇子の一人称って実際はそうだったと言うことなのかしら。
「いや、どうにかするさ! だからミリア、俺のためにも生きてくれ」
そう言われてオルセア皇子に見つめられる。
え? ちょっと待って。流れ、流れがおかしい。俺のためにもってどう言うこと? いや、普通に解釈すればプロポーズ的な物じゃないの、その発言って。
「皇子。今の、どう言う意味…で」
「そのままの意味だ。ミリア。君が不安に思うようなことは全て俺が全てどうにかする。だからミリア、俺と結婚してくれ」
は? いや待って。え…っと、結婚? 婚約じゃなくて…いえ、それでもおかしいわよね? と言うかここで言うの!?
「え…あ、えぇ?」
「嫌なら、俺の手を払って躱せばいい」
そう言って皇子の顔が私の前に迫って来る。
いや待って、もうちょっとでいいから時間を! 気持ちの事前準備くらい欲しいのだけど。
皇子の唇が私の唇に優しく触れた。
触れたのは一瞬。でも心は凄く満たされている。何だろう。今まで考えていたことを忘れるくらいには気持ちが軽くなっているわね。
まあ、何だかんだ考えながらも皇子の手を払って逃げようとは思わないくらいオルセア皇子の事が好きなのよ。それにあんなことを堂々と言い切ってくれるなら、それでも良いと思えて来るのよね。本当に。
でも皇子。周りに沢山の人が居るってわかっているわよね? 周りに居た人たち、何か怒涛の展開で茫然としているのだけれど、この後どうするつもりなのかしら。
あそこまで言い切ってくれるのなら、この後のこともしっかりと対応してくれるのよね?
オルセア皇子?
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