第24話 公爵家へ帰還
夕食を食べ終えて借りている部屋に戻った。どうやら皇子はあの話の後に私の雰囲気が少なからず変わったことに気付いているらしく、大事を取って部屋で休むように言ってきた。優しいと思うけど、あからさまに私の雰囲気が変わったからそう言われてもおかしくは無いわね。あれを見た皇子がどう思っているのかが気になるけれど、今更どうこうしても時間はないのだ。
皇子は私と婚約したいとか言っていたけれど、侵略した後がどうあれ私は傍から見れば売国した人間だ。皇子が王に成ろうがなるまいが、少なくとも重要な立場にはなるはずだ。そんな人物が売国した人物と一緒に居るのはどう考えても良い印象を持たれない。だから、これが終わった後は何処かに消えた方がいい…って、これだと私は結局死ぬことになるのでは?
自殺ルートに進まないように始めた計画だけど、このまま進めて行くと結局死ぬことになりそう。ああ、バッドエンドルートでは描写の必要が無いってだけで、ミリアは死んでいる可能性もあったわね。でも、出来れば生き延びたいところだけど、どうしたものかしらね。
まあ、結局のところそれが出来るのは、ほとぼりが冷めるまで他国で静かに暮らすか、皇子と一緒になるかなのだけれど。ただ、他国に行ったとしてもそれを探し出そうとする輩は少なからず出るだろうから、確実とは言えないわね。
皇子の方は、たぶん受け入れてくれるだろうけど迷惑はかけたくないし、そもそもそんな打算を持った状態で一緒に居たくない。
やっぱり私は事が済んだら消えた方が良いのかもしれないわね。
私はそう結論付けてその日は就寝した。
そして、それから前線基地に行くまでの間は皇子とは会うこともなく過ごし、移動の日を迎えた。
移動に使う馬車は皇都に来るときに使った物と同じもののようで、乗っている人も同じ。私の向かい側には皇子が座っているけど、来た時ほど浮かれた様子は無い。これから侵略を始めるのだから当然だけど。
かく言う私も来た時とは違う。まあ、これから侵略するからではなく、もうあの生活には戻れないからと言うのが大きいのだけれど。それを意識してからはそれまで感じていた充実感と言うかわくわくするような感じは一切なくなって、何をやってもつまらないしやる気も出なくなった。
まあ、私が計画を持ってきたのだからことが終わるまではしっかりやらないと。終わらせた先のことを考えるよりも目先のことを優先しないとね。
さあ、後少し頑張りましょうか。
前線基地では着々と侵略の準備が進んでいる。私たちがここに到着してから次々と後から軍人が集まっていており、最初に来た時に比べて基地の範囲は数倍に膨らんでいる。さすがに多くの軍人を長時間一か所に留めておくには費用が嵩むため、予定通り準備が整い次第侵略を始めることになっている。
そして、私は今から公爵家に戻りベルテンス王国内の予定を確認した後、国内の反乱軍の指揮をしながらアルファリム皇国軍の合流することになっている。
指揮をすると言っても戦いの中で指揮をするのではなく、オルセア皇子が率いるベルテンス王国城突入組と合流して城の中に入り、中に居る人たちを制圧することが目的であって私が直接戦うことはない…と思う。一応防具は着ていくけど、さすがに訓練している兵士とかには勝てる気はしないし。
夕方、そろそろ日が完全に落ちる前の時間帯に私とオルセア皇子、付き人としてデュレンと皇子の補佐役の兵士は馬車に乗ってベルテンス王国に向かっていた。前に王国から皇国に向かった際には検問や盗賊が出てきたのもあって馬車は途中までしか使う予定はない。
しばらく馬車を走らせて前回盗賊が出た所を通過する前に馬車を降り、森の中に入る。本来なら夜の森の中に入る事は問題外の行動だけれど、なるべく見つからない様にするには森の中を進むしかない。ただ、この森にはそれほど凶暴な生き物は居ないからそこは気にしないでも良いのだけれど、問題は暗い森の中をなるべく音を立てずに移動しなければならないことである。
まあ、要するに私がお荷物になっていると言うことだ。当たり前だけど貴族の令嬢が暗い所を、音を立てずに歩く訓練なんてする訳がないのだから当たり前なのだけど。
予定よりも時間が掛かってしまったけれど、森を抜けてベルテンス王国の王都に辿り付くことが出来た。
2か月ちょっと振りのベルテンス王国である。さすがに何か変わったと言うことは無いようだけど、どうも雰囲気はあまり良い感じではない。時間帯もあって人の気配はかなり薄いのは仕方がない事ではあるけど、どうもそれだけではなさそうだ。
これはもう少しの猶予もないのかもしれない。計画が早く纏まったのは救いだったのかもしれないわね。って、こんなことを考えていないで公爵家の屋敷に早く向かうべきだわ。こんな時間に外に居ること自体怪しまれる要因になるのだから、さっさと移動しないと。
人目に付き辛い道を進み、公爵家の屋敷の裏口…は監視されている可能性があるから、普段一切使わない使用人用の入り口から屋敷に入った。
入って直ぐの所は使用人が使う通路になっているので、そこを進んで行き屋敷のホールに出た。するとそこには私たちが来るのを待っていたらしく、ホールに置いてあるソファにお父様が座っていた。
「お帰り、ミリア。それとデュレンもここまで娘を守ってくれて助かった」
「ただいま戻りました。お父様」
お父様の声を聴いてようやく我が家に戻ってきたことと、少なくとも公爵家は変わっていないことを実感できて安心することが出来た。まあ、移動に関しては大して不安があった訳ではないのだけれど、もしかしたら腐敗政権の影響で我が家が変わり果てている可能性もあったからそこは少し不安だったの。
私が安心しているとお父様はオルセア皇子の前まで移動して頭を下げた。……いや、そう言えば今更だけど、本当だったら私とデュレンに声を掛ける前に皇子への挨拶が先だよね、お父様?
「それと、初めまして。私はミルゼア・レフォンザム。アルファリム皇国の第1皇子であるオルセア様に我が家までご足労していただき痛み入ります」
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