原始的幸福
ルルルルルルル
1
「娘は、どうして死んだのでしょう。」
憔悴を過ぎ、もはや道端に転がる石ころのような無の表情で、女は尋ねた。刑事になり、三十路を迎え、幾度かこう言ったやり取りをした事がある。その度に私は名状しがたい黒い渦が、胸で沸き起こる。しかしこの時、この母親の娘の死に関して、それは起こらなかった。
「屠殺です。」
そう言うと、さっきまで真白だった女の顔に、朱色の火が灯った。
「マァ!では娘は食べるために?」
私はゆっくり頷き、貴女にはアミルスタン羊を食す権利があると伝えると、女は羽ばたくように立ち上がり、一拍置いてその品のない行動を恥じるようにオホホと微笑んだ。どこからか、顔を覆面で隠した黒尽くめの男が、不釣り合いな程豪勢なお盆を持ってきた。ニヤリと男の目元が笑ったように見える。と、料理の蓋を開けた。どうやら唇と爪先のマリネのようだ。女は皿を引ったくり、ガツガツと鷲掴んで食べたかと思うと、丁寧に皿を舐め回した。
「次の料理を」
女は処女のように屈託のない、燦燦と輝く太陽のような笑顔を覆面の男に見せた。男はスッとどこかへ消えていった。
「こんなに美味しいならまた産もうかしら」
ご飯を食べながら次のご飯の事を考える。幸福がそこにはあった。男は二度と現れなかった。
原始的幸福 ルルルルルルル @Ichiichiichi
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