第109話 有川七海の日常⑨

 それからしばらく、二人で菜の花畑の写真を撮ることを楽しんだ。

 いい写真が撮れたり、撮れなかったり。撮った写真を霧也さんに見てもらったり、見せた写真を褒めてもらったり。とにかく楽しい時間だった。


「霧也さん。よかったら一緒に写真撮りませんか?」

「え、一緒にですか・・・・・・」

「ダメ、ですか?」

「いえ、そんなことはないですけど、少し恥ずかしいです」


 霧也さんは少しだけは頬を赤くして恥ずかしそうにしていた。

 そんな顔を見せてくれるようになったのも最近だった。


「じゃあ、撮りましょう! 恥ずかしかってる霧也さんのこと写真に収めたいです!」


 私は霧也さんをからかうようにそう言った。


「・・・・・・有川さんも意地悪ですよね」

「そうですか?」


 私は口角を上げてニヤッと笑った。

 霧也さんは恥ずかしかっていたが、私の隣にやってきてくれた。菜の花畑を背景に私はスマホを内カメラにして自分たちに向けた。その画面には、恥ずかしそうに笑ってる霧也さんと楽しそうに笑っている私と画面を埋め尽くすほどの菜の花が写っていた。

 パシャ。  

 スマホのシャッターを切る。

 最高の一枚の写真がスマホ内に収まっていた。


「最高の一枚が撮れました!」

「・・・・・・そうですね」


 やっぱり霧也さんは恥ずかしそうにしていた。だけど、嬉しいといった感じで笑っていた。

 そんな霧也さんのことが可愛くて、私はつい笑ってしまった。


「なんで、笑ってるんですか・・・・・・」

「だって、霧也さんがあまりにも可愛いから」

「やっぱり、有川さんは意地悪です」

「そうかもしれませんね」


 小さな幸せをたくさん集めると大きな幸せになる。

 人よってどんなことに幸せを感じるかは違うだろう。その大小も人それぞれだと思う。

 私にとって、今この時間は小さな幸せで、この時間を積み重ねていった先に大きな幸せが待っているような気がする。なぜだか、私はそう思った。



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