第91話 【旅立ちのマドレーヌ】

 いよいよ。この日がやってきた。

 旅立ちの日。

 今日、俺たちは晴れて義務教育を卒業する。

 長かったような短かったような三年間。高校生活での思い出のほとんどは三年生の時期に集約されている。


「とうとう、卒業しちゃうんだね」

「そうだな」

「三年生が一番短かったような気がする」

「俺も同じこと思ってた」

「だよね。なんでだろう」

「なんでだろうな。楽しかったからじゃないか」

「やっぱり、翼もそう思う?」

「まぁな。三年生は楽しかったな」


 ほんとに、三年生は楽しかった。陽彩と出会ってからの日々はバラ色だった。と言えるだろう。

 卒業生の胸ポケットには赤色のバラの花が刺さっている。

 この真っ赤なバラ色のように陽彩との日々は濃かった。

 もっと、早く出会っていたら、俺の人生はどうなっていたのかと思うこともあるが、出会ってのが三年生からでよかったっと思うこともある。きっと、陽彩と二年生や一年生の時に出会っていたら穏やかな学校生活を送ることはできなかっただろう。そう言った意味では三年生からでちょうどよかったのかもしれない。

 人生はまだまだ長い。高校を卒業したら人目を気にすることもなくなるから堂々と陽彩と付き合っていくことができる。二年なんて一瞬で埋めてしまうほど、濃い日々を過ごそう。

 俺は体育館に向かう途中でそんなことを思っていた。 

 

 体育館の入り口に到着すると、なんだか泣きたくなってきた。

 これで本当に終わり。この中に入ると俺たちは卒業証書を渡されて卒業が決まる。

 そう思うと涙腺が緩みそうになった。


「終わりか……」

 

 いや、これから始まるんだよな。

 終わりがあれば始まりがある。それがこの世界の理だ。もちろん、その逆もあるだろう。始まりがあれば終わりがある。それが生きるってことだ。

 これから旅立とうとしてる未来はどんなものなのだろうか。素敵な未来が待っているのだろうか。それとも苦労の未来が待っているのだろうか。

 どっちにしても俺はスイーツを作り続けてるんだろうな。

 体育館の入り口が開いて、一組の生徒から順に体育館の中に入場していった。体育館の中では吹奏楽部が校歌を演奏していた。

 聞きなれたこの校歌を聞くのもこれで最後。

 終わるものを数えるときりがなくなるのが卒業式というものだ。

 卒業生が整列し終えると、卒業式が始まった。

 卒業証書授与。校長先生の挨拶。在校生の挨拶。卒業式は滞りなく終わって、俺たちは教室に戻っていた。


「皆さん、卒業おめでとうございます。これから、皆さんはいろんなことを経験していくことでしょう。その中で自分を成長させていってください。自分のやりたいことを見つけていってください。皆さんにならそれができるはずです」

 

 担任の先生が最後にそんな言葉を俺たちに贈ってくれた。


「先生。一年間、私たちの面倒を見てくれてありがとうございました。先生にはたくさん助けられました。これから辛いことがあっても、先生からもらったたくさんの優しさを思い出して、頑張っていこうと思います」


 学級委員長の有川がそう言うと、担任に隠れてクラスメイトがこっそりと書いていた色紙を渡した。

 その色紙を受け取った瞬間、涙をぼろぼろと流し始めた。

 そんな担任の姿を見た何人かのクラスメイトが涙を流し始めた。普段、冷静な有川も涙を流していた。

 やっぱり旅立ちというのは悲しいものである。

 俺も静かに涙を流した。

   



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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


このお話も残すところ九話。たぶん笑

もちろん、別の形で続編が続ける予定なので、そちらが始まったら、そちらも読んでいただけると嬉しいです☺️

ではでは、最後まで陽彩と翼のスイーツをお楽しみください♪


 

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