第68話

 茶色のカーディガンを着た生徒が俺の前に立っていた。

 十一月も中旬ということもあって、女子生徒たちはカーディガンを羽織っている。ちなみに茶色と紺色のカーディガンがある。

 陽彩は茶色の方を選んだらしい。なんて、俺はのんきなことを考えていた。


「えっと、何か怒ってますか?」

「別に……」


 明らかに機嫌悪いですよね。眉間にシワよってるし。

 何があったんだろうか? 

 陽彩は俺の隣にドシッと座った。


「何かあったのか?」

「何もないよ」


 隠されると逆に気になるんだがな。

 どうやら、話したくないらしい。


「俺、何かしたか?」

「ううん。翼のせいじゃないよ」


 俺のせいじゃないけど、何かに怒ってるわけだな。

 

「言いたくないなら聞かない」

「うん。そうして……」


 う~ん。本人が話したくないなら無理には聞かないけどさ。さすがに気になるな。陽彩は何に怒っているのだろうか。あとで、あの二人にこっそりと聞いてみるか。


「こういうのは早く行った方がいいと思うし、この気分を変えたいから言うんだけど」


 陽彩はそう前置きをして、俺にある提案をしてきた。


「翼も一人暮らしするんだよね?」

「そうだな」

「県内の大学なんだよね」

「うん」

「もしさ、翼さえ迷惑じゃなければ、一緒に住まない?」

「えっ……」


 えっと、何を言われたのか最初は理解できなかった。一緒に暮らすって言ったか?

 それって、同棲ってこと?  

 

「それって……」

「まあ、同棲ってことだね」

「すごい、唐突だな……」

「ほんとは、この前言おうと思ってたんだけどね」

「そうなのか」

「ダメかな?」


 上目づかいで俺のことを見てくる陽彩。何だろう、陽彩がいつも以上に甘えてきてる気がする。陽彩の大きな瞳がウルウルとしていた。 

 もちろん、そんな目で見られれば、俺は断れるはずもなく、いいよと頷いた。


「ほんとにいいの!?」

「まあ、断る理由もないしな」

「えーーーーー。ほんとにいいの!?」

「何回確認するんだよ」

「だって、いいよって言われると思ってなかったから」

「俺が断ると思ってたのか?」

「だって、迷惑じゃない?」

「俺が可愛い彼女の頼みを断るとでも?」


 俺はそう言って陽彩の頭を撫でた。少し機嫌がよくなったのか陽彩は微笑んだ。


「それに、迷惑だったら迷惑って言うよ」

「元気出た。ありがと」


 やっぱり今日の陽彩はいつも以上に甘えてくる気がする。

 陽彩は俺の胸に頭を埋めるような形でくっつけてきた。俺はそんな陽彩の頭を優しく撫で続けた。


「受験が終わったら一緒に家見に行くか」

「うん!」

「陽彩はどんな家に住みたいとかあるか?」

「う~ん。特にないかな。でも、綺麗なところがいいな」

「そうか。俺も特にないから陽彩が決めてもいいぞ」

「え~。せっかくだから、二人がここがいいってところに住もうよ~」

「それもそうだな。ところで、なんで怒ってたんだ?」

「あ~。それね。忘れちゃった」

 

 陽彩はてへっと舌を出した。まったく、現金なやつめ。まあ、忘れるくらいなのだから大したことじゃなかったんだろう。


「気になるじゃないか」

「もういいの、そのことは! それよりもどんな家に住むか考えようよ~」


 それから俺たちはお昼休憩が終わるまで、あれこれと住みたい家について話し合った。


 お昼休憩の後、こっそりと有川に聞いたのだが、陽彩が怒っていた理由は学食で買いたかったパンが売り切れだったというものだった。なんでも、そのパンは今日しか売ってなくて、すごく美味しい菓子パンだったらしい。食べてないからわかんないけど。

 ほんとに陽彩は甘いものに目がないな。

 というか、怒ってたわけじゃなくてへこんでたのか。

 明日、スイーツを持って行ってやるか。

 俺は家に帰ったらモンブランを作ろうと思いながら授業を受けていた。




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