第54話

 温泉から上がると俺たちは旅館に併設されているレストランで遅めの夕食を取っていた。


「うわ~。美味しそうな天ぷら!」


 俺たちの目の前には天ぷら定食が置かれていた。エビのなすにカボチャにレンコン

などなど、数種類の天ぷらがあった。その黄金色の衣を見ているだけでよだれが垂れてきそうだった。


「今、私たち凄い贅沢してるね」

「だな。本当にマダムに感謝しないとな」

「ね~。早く食べようよ!」

「そうだな」


 俺はレンコンの天ぷらを箸でつまんで食べた。

 サクサクという心地のいい音が口の中で鳴る。うまい!  

 その一言に尽きる。


「はぁ~。お腹いっぱい」


 陽彩は幸せそうにそう言った。


「まだ、デザートがあるみたいだぞ」

「え、そうなの!」

「ゼリーが来るとか言ってた気がする」

「天ぷらに夢中で聞いてなかった」


 旅館のゼリーか。何ゼリーが来るのだろうか。俺は少しだけ楽しみにしていた。

 それにしても、お風呂上がりで浴衣姿の陽彩は色気がやばいな。

 俺は隣に座っている陽彩を思わず見つめてしまった。


「何?」

「いや、何でもない。早くゼリー来ないかな」

「そうだね。どんなゼリーかな。翼はゼリー食べる?」

「う~ん。あんまり食べないかな」


 俺はゼリーを好んで食べることはなかった。出されたら食べるっといった感じだ。


「陽彩は食べるのか?」

「私はね。よく食べるよ!」

「そうなのか。それは初耳だな」

「あれ、言ったことなかったっけ。結構好きだよ。ゼリー」

「そっか。じゃあ、今度作ってみるかな」

「え、ゼリーも作れるの!?」

「まあ、作れないことはないかな」

「作って! 約束ね」

「ああ、わかった」


 陽彩と約束を交わすと、ゼリーを若女将が運んできた。


「お待たせしました。食後のブドウゼリーでございます」

「ありがとうざいます」


 若女将は紫色のブドウゼリーをテーブルの上に置くと立ち去って行った。


「ん~。美味しい。美味しいよこのゼリー」


 陽彩はほっぺたに手を当てて本当に美味しそうに食べた。

 俺も一口食べてみる。ブドウの味がしっかりと残ってて美味しかった。

 ご飯も露天風呂も部屋もどれも最高によかった。これは、口コミに書いてあたようにまた行きたくなる気持ちはわかる。

 もしも、陽彩との間に子供ができたら、三人でまた来たいものだ。

 

「何考えてるの?」

「ん、将来のことかな」


 食後のゼリーを食べ終えると、俺たちは部屋へと戻っていった。



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