第40話
『蓮』の閉店時間になって、俺たちは清掃作業を行っていた。
これが、終わったら、いよいよ・・・・・・。
心臓がドキドキと音を鳴らす。俺はその鼓動を聞きながら床掃除をしていた。陽彩と朝美はテーブルを拭いている。
「今日も忙しかったわね〜」
「そうですね〜」
二人はまるで親子のように会話をしていた。
ほんとに、すっかりとお店に馴染んでるな。俺はそれが嬉しかった。もう、家族の一員みたいな感じがして。
「さて、掃除はこの辺にして、私たちは上に退散しましょうかね」
朝美がそう言うと、キッチンにいた蓮夜をつれて二階の自宅に上がって行った。
お店には俺と陽彩だけが残こされた。
「陽彩。座って待っててくれないか?」
「分かった・・・・・・」
俺は陽彩にそう言うとキッチンに向かって、冷蔵庫からあれを取り出す。
真っ白なある国の伝統的なスイーツ。その国で、そのスイーツはこう呼ばれていた。
『天使のクリーム』
これは、俺が修行に行った国で教えてもらったスイーツだった。
味はあっさりめ、なめらかでクセのないフレッシュなチーズみたいなもの。これにイチゴのジャムを添えて完成だ。
「さて、行くか」
俺は気合を入れて、そのお皿を陽彩の元へと慎重に運んでいった。
陽彩の緊張感が伝わってきて、俺はさらに緊張してしまっていた。手が震える。
俺はゆっくりとお皿をテーブルの上に置いた。
「これは・・・・・・?」
「クレームダンジュ。俺が行った国で教えてもらった伝統的なスイーツ。これを陽彩に食べてもらいたくて」
陽彩はクリームダンジュを物珍しそうに見ている。まあ、普通はあんまり目にいないものだから。俺も知らなかったし。
「食べていいの?」
「召し上がれ」
俺は蓮夜がいつか陽彩にしたように、英国紳士の挨拶をした。
陽彩はクリームダンジュをスプーンで掬って口に運んだ。その瞬間、陽彩の顔が幸せそうに綻んだ。
俺はその顔を見てほっとした。よかった。どうやら、口に合ったみたいだ。
「美味しい!!」
「よかった」
俺は陽彩の前の席に座る。そして、陽彩がクリームダンジュを食べ終わるのを待った。終始幸せそうな顔で食べていた陽彩を俺はずっと眺めていたいと思った。
「美味しかった〜! ごちそうさまでした!」
「お粗末様」
俺は、ふぅー、と一息つく。
そして、陽彩の名前を呼ぶ。
「陽彩」
「はい・・・・・・」
「えっと・・・・・・」
「うん」
「その・・・・・・」
「もう、早く言いなさいよ!」
痺れを切らした陽彩が言った。
「あーもう! 言うよ!」
「うん!」
「陽彩のことが好き!」
「私も!」
「それで、将来一緒にお店をやってくれませんか?」
「え・・・・・・」
「いや、やっぱり、最後のは忘れてくれ」
「無理だよ。さっきの、え、はビックリのだから。まさか、翼からそう言ってくれるなんて、思ってなくて・・・・・・」
「それって、陽彩も同じこと考えてたってこと?」
「うん・・・・・・」
陽彩が恥ずかしそうに頷いた。
まさか、陽彩も同じことを考えてるなんて。俺は唖然として立ち尽くしていた。
「だから、翼には頑張ってもらわないといけないんだからね!」
「はい。頑張ります・・・・・・」
「ところで、これはプロポーズってことでいいの?」
陽彩がニヤニヤと笑ってそう言った。陽彩に言われて気が付いたのだが、これはプロポーズってことになるのか?
将来一緒にお店を一緒にやってくれって、俺が見てる未来は蓮夜と朝美のような景色だった。そう言った意味ではプロポーズということになるのかもしれない。
「・・・・・・かもな」
「ふ〜ん。じゃあ、頑張ってね未来の旦那様! というか、一緒に頑張ろうね!」
その格好で言われると破壊力がヤバすぎる!
俺は陽彩を直視できなかった。
「そうだな。これからもよろしくな」
「こちらこそよろしく」
陽彩が右手を出して握手を求めてきた。俺はその手をしっかりと握った。
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