第39話
日本に戻ってきてから二日が経った。いよいよ、俺は今日のバイト終わりに陽彩に告白をしようと決めていた。
あれの準備もできている。後は、陽彩を誘うだけ。
『蓮』の開店時間、一時間前に陽彩はお店にやってきた。
「お、おはよう」
「おはよう」
俺は緊張してるのか、うまく挨拶ができなかった。
「どうしたの?」
それで逆に俺は陽彩に心配されてしまった。
長引かせたら、言えなくなってしまいそうだったので、勇気を出して言葉を絞り出した。
「陽彩。今日、バイトが終わった後、時間ってあるか?」
「あるよ」
たどたどしく、そう言う俺のことを陽彩は不思議そうな顔で見ていた。
「話があるから、俺に少し時間ください」
「……分かった」
俺がどんな話をするのか分かったのか陽彩の顔に緊張の色が見えた。
それから、時間が経過して『蓮』の開店時間となった。
俺たちは仕事中、何も話すことなく一生懸命に動き回った。というより、忙しすぎて話す暇がなかった。
相変わらず、夏休みということもあって、開店同時からお客さんがたくさんお店に訪れてくれていた。
お昼の休憩になってやっと落ち着くことができた。
「疲れた~」
「お疲れ」
陽彩が俺の前に水の入ったコップを置いてくれた。
そして、俺の前の席に座った。
「ありがと。なんか、すっかりとお店に馴染んでるな」
「そうかな?」
「ああ、常連さんとも楽しそうに会話してたし」
「まあ、翼がいない間、私が頑張って代わりを務めてたからね」
「ほんとに、助かったよ。ありがと」
俺は手を伸ばして陽彩の頭をなでた。
「翼……?」
「頑張ってくれたから、ご褒美、みたいな……」
「そ、そっか。ありがと……」
お互いに恥ずかしくなって顔を逸らした。
それからしばらく二人の間にちょっぴり甘い雰囲気が流れていた。
その雰囲気をかっさらっていったのは、朝美だった。
「あら、二人とも、なんだかいい雰囲気ね!」
語尾に、うふふ、と付きそうなくらい朝美はニヤニヤとした笑顔で俺たちの間の席に座った。
「早く、くっついちゃえばいいのに!」
「なっ……」
「……」
まったく、この人は。こっちがせっかくいろんなことを考えているってのに、すべて持っていってしまいやがって。
俺は朝美の顔を睨んだ。
「え、もしかして、私、何かまずいこと言った?」
俺が睨んでいることに気が付いたのか、朝美は不安そうな顔をした。
その通りだよ。あんたは、言っちゃいけないことを言ったよ。
俺は自分の頭を抱えた。この際、ここで言ってしまおうか。なんて、考えが一瞬頭をよぎったが、やめた。
「さて、私は退散しようかな……」
そう言うと、朝美はそそくさと逃げるようにいなくなった。
「お、俺たちも戻るか……」
「そ、そうだね……」
午後の仕事に戻った俺たちの間には、さっきのようなちょっと甘い雰囲気じゃなくて、ほろ苦な雰囲気が漂っていた。
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