第37話

 二週間というのはあっという間で、明日、翼が帰ってくる。

 それだけで、胸が躍った。早く会いたい。翼に会いたいと心が言っていている。

 もちろん、明日、空港まで行って翼のことをお出迎えをするつもりだ。

 翼が戻ってくるのは、『蓮』が終わってから、らしいので、三人で行くことになっている。このことを翼は知らない。


 そんな浮かれ気分の私は今、『蓮』の営業が終わって、朝美さんと一緒に清掃をしているところだった。


「いよいよ、明日帰ってくるのね。あの子」

「そうですね」

「どんなお土産を買ってくるかしらね〜」

「そうですね」

「陽彩ちゃんは、翼ちゃんのこと好きなの?」

「そうですね」

「そうなのね〜」


 ん?

 ちょっと待って、私、今、すごい発言した?

 私は朝美さんの顔を見た。朝美さんはニヤニヤと笑っている。

 しまった〜!!

 翼のことを考えてて、ちゃんと話を聞いてなかった!!


「えっと・・・・・・、今のは、その・・・・・・」

「もう、照れなくてもいいのよ〜! 分かってたことだから」

「え、そうなんですか?」

「あたりまえじゃない。陽彩ちゃん、お仕事中、いつも翼のこと目で追ってたし!」

「うそっ!」


 私は恥ずかしくなって朝美さんから顔を逸らした。

 私、そんなに翼のことを目で追っていたのだろうか。自覚はなかった。


「その顔は自覚ないって顔ね?」

「・・・・・・はい」

「まあ、そんなもんよ。恋してるときはついついその人のことを目で追いたくなっちゃうのよね~。私もよく蓮夜さんのことを見てるし」

「そうなんですか」


 朝美さんはきゃっ、と言いながら自分のほっぺたに両手をあてた。


「恋してるときは、その恋を楽しみなさい。結果がどうであれ、きっとその恋は心の糧になると思うから」

「朝美さんはたくさん恋をしてきたんですか?」

「まさか、私は蓮夜さん一筋よ!」 

 

 朝美さんは自信満々に胸をはってそう言った。そう言い切れるのが羨ましかったりする。

 恋は人を臆病にさせる。相手の気持ちはどれだけ考えても分からない。それが、好きな人ならなおさらだ。好きな人だからこそ、自分の気持ちを伝えてしまったら、どうなるのかを考えてしまう。それで、嫌われてしまったら。今までのように話せなくなってしまったら。そう考えると、ずっと今のままの関係が続けばいいなと思ってしまう。たとえ、関係が変わらないとしても。


「私は告白した方がいいんでしょうか?」

「それは、悩む必要ないんじゃないのかな」

「どうしてですか?」

「だって……。おっと、ここから先は翼ちゃんの口から言った方がいいわね」


 朝美さんは最後の言葉を濁して、机の清掃に戻っていった。

 ――――――悩む必要ない、か。

 運命の選択をするのは、ほんの少しの勇気だよね。

 私は、窓の外に輝く星を眺めながらそう思った。

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