第36話

 翼が旅立って一週間が経過した。

 あれから何度か連絡がきたが、翼は頑張っているらしい。さっき送られてきたメッセージには写真が添付されていた。それは美味しそうなスイーツの写真だった。


「あ、それはクリームダンジュね」

「知ってるんですか?」

「もちろん。蓮夜さんに何度か作ってもらったことがあるわ」

「そうなんですね」


 今は、『蓮』のバイトの休憩中だった。私は朝美さんと一緒に昼食を食べていた。夏休みの『蓮』はゴールデンウィーク並みに忙しかった。目まぐるしく過ぎていく日々の中に私は充実感を感じていた。去年の今頃は、二人と一緒に私の家でぐうたらと過ごしていたっけ。まあ、それはそれでいいんだけど、将来のことを考えると、この経験は私にとってすごく貴重だ。


「陽彩ちゃん。疲れてない? 大丈夫?」

「はい。大丈夫です。むしろ、楽しいです」

「そっか。よかった。でも、無理はしないでね。疲れたらちゃんと言ってね」

「はい。ありがとうございます」


 私は翼に連絡を返した。

『日本に戻ってきたら、それ食べたい!』

 翼からの返事はすぐに返ってきた。

『了解。世界一美味しいクリームダンジュを作るよ』

『楽しみにしてるね! 仕事に戻るね』

 私はそう返事をして仕事に戻った。

『忙しいだろうけど、頑張って』


 

 翌日はお休みだった。なので、今日はあの二人を久しぶりに会うことになっていた。


「ひーちゃん。久しぶりー」


 相変わらず元気な愛理。


「陽彩。元気そうね」


 こっちもいつも通りの七海。

 今日は、カフェで女子会だった。前回行ったtころとはまた違うカフェにやってきていた。

 

「バイトはどう?」

「忙しいけど、楽しいよ」

「そう。楽しそうで何よりだわ」

「つーくんは元気そう?」

「うん。毎日連絡来るから」

「ラブラブだね~」


 愛理が茶化してくる。

 私は話をそらすように、店員さんを呼んでパスタを注文した。二人も各々に食べたいものを注文していった。


「で、ひーちゃん。つーくんから告白されたの?」

「ぶっ……」


 私は飲んでいた水を吹き出しそうになった。


「なんで、そんなこと……」

「だって、デートしたんでしょ?」

「されてないよ。まだ……」

「まだって、ことはそのうちされるってこと?」

「それは……」


 どうなんだろう。翼はあの日、日本に帰ってきたら話があるって言っていた。もしかしたら、それは告白なのだろうか。と勝手に考えてたりする。

 

「こら、またそうやって」

「だって~。気になるじゃん。ひーちゃんの恋を叶えようの会のメンバーとしていは、早く恋人同士になってもらはないと」

「そういえば、そんな会があったわね」


 七海はその会のことを忘れていたらしい。私もそのことをすっかりと忘れていた。

 テーブルに私が注文したパスタが運ばれてきた。


「で、実際のところはどうなの?」

「七海も気になるんだ……」

「そりゃあね。親友の恋が気にならないわけないじゃない」

「告白、かどうかは分かんないけど、翼から、日本に帰ってきたら話があるって言われた……」

「それは、もう告白だよ~!」

「そ、そうかな?」


 愛理はニコニコと笑いながらタコライスを一口食べた。


「もっと、自信もちなよ~。私から見たら、二人はもう恋人同士のように見えるけどね~」

「そうね。私も愛理と同じ意見よ」


 二人ともそう思ってたんだ。私たちのことがどう見えてるかなんて、自分たちでは分からない。はたから見たら、私たちはそんな風に見えていたのか。それは、なんだか嬉しい。


「だから、もしも、つーくんが告白してこなかったら、ひーちゃんから告白しちゃいなよ。絶対に成功するから~」

「そ、そうかな?」


 二人は大きく頷いた。

 そっか。私から告白……。それは、考えてなかったな。翼と恋人同士になれたらそれはそれで嬉しいんだけど、だからって今と何か変わるのかと言えば、何も変わらない気がする。ただ、肩書きが友達から恋人になるだけ。私たちの関係性は今と何も変わらないと思う。

 でも、きっと告白をすることに意味があるんだよね。好きだって、面と向かって気持ち相手に伝えることに意味があるんだよね。それが、もしもダメだったとしても、相手に気持ちを伝えたってことが大切なんだよね。

 私はもしものことを考えて、翼に告白をする決意をしたのであった。

 

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