第26話
六月も下旬になって、日差しさらにが強くなったように感じる。
教室内も蒸し暑かった。
そろそろ、半袖のカッターシャツに衣替えする頃かな。
「暑い~」
雛形が前の席で下敷きをうちわ代わりにしてパタパタと仰いでいる。
テストが終わってすぐに席替えがあった。席替えはくじ引きで決めた。神様のいたずらか、俺の席は教室のど真ん中になった。
最悪だ。しかも、前の席があの雛形だった。クラスのマスコット的存在の雛形の周りにはいつも人がいる。陽彩が雛形の席にやってくることももちろんあるし、その逆ももちろんある。
陽彩の席は俺の少し右斜め前だった。
「愛理。はしたないからやめなさい」
「だって~。暑いんだもん~」
「まあ、それは同感だけどね」
「ほんとに、暑いよね」
雛形と有川が話してるところに陽彩も加わった。
陽彩が俺に視線を送ってくる。
俺は、教室では話しかけるな、という視線を向けて読んでいた本に視線を戻した。
「そういえばひーちゃん。やりたいことが見つかったんだって?」
「んー。まあ、見つかったというか、なんというか……。まだ分からないんだけど、一応、みたいな?」
「何それ~。結局どっちなの?」
雛形の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「まあ、どっちでも私はひーちゃんを応援するんだけどね!」
「私もよ」
「ありがとう二人とも」
そこでチャイムが鳴って、午前最後の授業が始まった。
今日の最後の授業は数学だった。
「何かやりたいことが見つかったんだってな」
「聞いてたんだ」
「まあ、後ろの席にいたからな」
陽彩は赤い弁当箱を開けて、食べ始める。
「それで、陽彩のやりたいことってなんなんだ?」
「それは、まだ秘密」
「そっか」
「あれ? もしかして悲しんでる?」
陽彩が俺の顔を覗き込んでくる。
「安心して、ちゃんといつか翼には教えるから」
「わ、分かってる」
「翼以外の異性には教えないから」
そう言って、陽彩はいたずらな笑みをう浮かべた。
「とにかく、やりたいことが見つかってよかったな。応援するよ」
「なんで、他人ごとなの? 一応、私のやりたいことは翼に関係してるんだけどな~」
「はっ!?」
「まあ、まだ秘密だけどね」
陽彩は自分の口に右手の人差し指をあてて言った。
なんだよそれ。わけがわからん。
俺に関係してるって何なんだ? それが何か予想がつかなかったし、それがどんなやりたいことであれ、俺は陽彩を応援するつもりだった。
「私のやりたいことを叶えるためには翼に頑張ってもらわないと!」
「よくわかんないけど、頑張るよ」
「まあ、私も頑張らないといけないんだけどね……」
陽彩がボソボソと何か言っていたが、よく聞こえなかった。
「そういえば、今日はバイトの日だっけ?」
「うん」
「『蓮』で働くのは楽しいか?」
「もちろん、楽しいよ!」
「そうか」
「どうしたの?」
「気になっただけだ。陽彩が楽しいって思ってくれてるならそれでいい」
陽彩は首をかしげて、意味が分からないといった顔をしていた。
もしも、俺がお店を持つことができたら、陽彩と一緒に働きたいな。そんな思いを胸に抱えながら、俺は弁当を無言で食べる。
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