第17話 【お疲様のフルーツロールケーキ】

 学校の前にある桜並木の桜がほとんど枯れた五月上旬。

 明日から世間でいうところのゴールデンウィークが始まる。今年は、祝日と休日が重なって、十日間の長い休みとなるそうだ。


「翼はゴールデンウィーク何するの?」

「多分、家の手伝い」


 俺と陽彩は今日も屋上で一緒に昼食を食べていた。

 毎年、ゴールデンウィークは家の手伝いをさせられているので、今年もおそらくそうなるはずだ。


「そうなんだ」

「陽彩は何するんだ?」

「う~ん。七海と愛理と一緒に遊ぶ約束はしてるけど、それ以外は今のところ予定はないかな」

「意外だな。陽彩は友達が多いから、てっきり毎日予定で埋まってると思ってた」

「そんなことないよ。学校で話す友達は多いけど、一緒に遊んだりするのは七海と愛理だけだし」

「そうなんだ」


 いつもクラスでいろんな生徒に囲まれているから、予定が埋まっていると思っていたが、違ったらしい。

 なら、あの件を頼んでみるのもいいかもしれない。


「ほんとに暇なのか?」

「そうだよ。どうしたの?」

「嫌なら断ってくれていいんだけど、暇ならうちでバイトしないか?」

「え……」

「正直、ゴールデンウィークは三人だと手が回らなくなるんだ。去年もそんな感じで毎日一日中動きっぱなしで休まる暇がなかった。ちょうど、母親ともバイトを雇ってもいいかもって話をしてたとこだから、陽彩さえよかったら、やらない?」


 ゴールデンウィークは、というより、休日は平日の三倍くらいの人がお店に来客する。平日でも三人でかなりきついのに、お客様は年々増加していっている。さすがにこのままだと、三人のうち誰かが倒れてしまうかもしれない。

 だから、最近ようやくバイトを雇おうと朝美と話していたところだった。正直、遅すぎるくらいだ。


「たぶん、かなり大変だと思うけど、その分、給料は出ると思うし、まかないも出ると思から」

「いいよ。やっても」

「ほんとか?」

「うん。その代わり一つ条件」

「何でも言ってくれ」

「ゴールデンウィークの最終日に翼のスイーツが食べたい!」

「そんなことでいいなら、了解だ」

「ん、じゃあ、決まりね! ゴールデンウィーク初日からでいい?」

「よろしく頼む」


 というわけで、陽彩がゴールデンウィークの間だけお店の手伝いをしてくれることになった。そのお礼にというわけではなく、もともとあげるつもりだった、オレンジピールを混ぜ込んだチョコレートをあげた。


「何このチョコレート!! 美味しい~」

「ありがと」

「これ、何が入ってるの?」

「オレンジピール」

「オレンジピールって?」

「オレンジの果皮を砂糖水で煮詰めて乾燥させてドライフルーツにしたものかな」

「へぇ~。甘くて美味しいね。このほろにがのチョコレートといい感じにマッチしてるね」


 俺も昨日作った時に自分で食べたのだが、なかなかうまくできたと思う。朝美に食べさせたら、絶賛していた。蓮夜に食べさせたら、まだまだだなと言われた。母親と父親でこんなにもリアクションが違うとは。絶対にいつか蓮夜の口から美味しいって言わせてやる。

 大きすぎる背中を追うのは大変だ。まあ、その分楽しくはあるんだけどな。壁は大きければ大きいほど、超えるだけの価値が高くなるってもんだ。


 

  

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