第12話

 学校に到着すると、教室にはいつもの光景が広がっていた。陽彩を中心にたくさんの生徒が楽しそうに話をしていた。

 俺もいつものように教室では空気に徹する。と思っていたのだが、雛形が俺のとこにやってきてこう言った。


「つーくん。ひーちゃんと喧嘩した?」

「え・・・・・・」

「なんか怒ってるから?」


 怒ってる?

 あんなに笑顔で楽しそうにクラスメイトと話をしてるのに。

 

「まあ、それが分かるのは私となーちゃんだけだけどね。なーちゃんも気にしてるんだー。ひーちゃんが怒ってる理由。何か知らない?」

「・・・・・・」

 

 陽彩が怒ってる原因はもしかしなくても俺か? 朝の陽彩とのやりとりが頭の中に蘇ってきた。


「違うならごめんね。でも、もしも、つーくんが怒らせたなら許さないからね」


 殺気のこもった声で言う雛形に俺は気圧された。こんなにも陽彩のことを思っているなんて、陽彩が泣いているところをみようものなら、泣かせた相手を殺しそうな感じがした。


「じゃあ、またね〜」


 手を振りながら陽彩の隣に戻っていく雛形。その姿を追ってると目を細めて不満そうな陽彩と目が合った。

 どうやら原因は俺のようです・・・・・・。雛形にバレないようになんとか解決しないとな。

  

 陽彩と一度も話すことなく昼休憩がやってきた。

 俺は屋上に行く前に陽彩のことをチラッと見た。陽彩は雛形と有川と一緒にご飯を食べていた。

 

「はぁ。どうすればいいんだよ」


 俺は誰もいない屋上でボソッと呟いた。

 陽彩と話そうにも教室では無理だし、かといって雛形と有川がいつもくっついてるから一人の時を狙うのは難しそうだし。八方塞がりだった。

 そう思っていたその時、屋上の扉が開いた。


「どうしてここに・・・・・・」

「何よ。来たら悪いの?」


 屋上に入ってきたのは陽彩だった。来ないと思ってた人物のまさかの登場で俺は困惑気味だった。


「来ないと思ってた」

「そのつもりだったんだけどね。愛理がうるさいから」


 どうやら、雛形が後おししてくれたらしい。どこまで分かってての行動かはわからないけど、ありがたかった。


「で、私に話って何?」


 ああ、そういうことになってるのね。

 俺は頭を整理して、言うべき言葉を模索した。

 

「神宮寺さん・・・・・・」

「陽彩」

「え・・・・・・」

「陽彩」


 どうやら名前で呼んでもらいたいらしい。


「陽彩さん・・・・・・」

「陽彩」

「あーもう。分かった呼べばいいんだろ! 陽彩!」

「何?」


 名前を呼んでようやく反応した。


「その、朝はごめん」

「・・・・・・」


 陽色は俺の言葉を待っているようだった。俺の目をジーッと見つめて離そうとしない。


「・・・・・・よく似合ってる」

「何? 聞こえなーい」

「絶対に聞こえてたろ」

「もう一回言ってほしいな〜」

「そんなこと言っていいのか? せっかく今日は持ってきたのに」

「えっ・・・・・・」


 からかわれてばかりで癪だったので俺も陽彩のことをからかうことにした。


「スイーツ持ってきてくれたの!」


 急に態度を変えて体ごと近づいてくる陽彩。

 シャンプーのいい匂いが風に乗って漂ってきた。


「あげるから、離れてくれないか」

「あ、ごめん」

「ありがと。今日はガトーショコラ。本当は朝、渡そうと思ってたんだけどな」

「そうだったんだ。なんかごめんね」

「いや、俺の方こそごめん。気づかなくて」


 二人の間に気恥ずかしい空気が流れた。

 そんな空気を変えようと陽彩が口を開いた。


「食べでもいい?」

「どうぞ」

「やった! いただきます」

 

 ガトーショコラを美味しそうに食べる陽彩。

 俺はそんな陽彩の顔を見て気が付いた。俺は陽彩のことが好きだ。


「よく似合ってるよ。陽彩」

 

 俺は、ガトーショコラを夢中で食べてる陽彩に向かってそう呟いた。

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