【感謝!!14万PV突破〜✨】美少女にスイーツをあげたら、ねだられるようになってしまった!?(仮)

夜空 星龍

第1話 【出会いのマドレーヌ】

 獅戸翼ししどつばさは地味系男子を演じていた。

 そんな俺はもちろん、教室に居場所があるわけもなく、今日も屋上でお昼ご飯を食べているのであった。


 春桜高校しゅんおうこうこうに入学して二年が経った。この高校は毎年クラス替えがある。クラスメイト達はすでにグループを作り終えており、俺は目論見通り高校でのぼっちを確定させた。大半の時間を一人で過ごしたいた。一人の時間は苦じゃなかったし、人に気を遣う必要もなかったので、むしろ楽だった。


 俺の趣味はスイーツ作り。小さな頃から親の影響でスイーツを作ることが大好きだった。両親が俺の作ったスイーツを食べて幸せそうな顔をしてくれるので、その顔をもっと見たくて俺はさらにスイーツ作りに夢中になった。


 早く自立したかった俺は中学生時代を全て勉強とスイーツ作りのために使った。そのおかげで、中学ではいつもテストで一位だったし、スイーツ作りの腕もそれなりに上がっていた。

 それでもまだ父には届かなかった・・・・・・。

 

 俺は自分の家のことをあまり裕福な方ではないと思っている。

 俺の両親は二人でスイーツ店を営んでいた。一階がお店で、二階が我が家の小さなお店だった。だけど毎日のようにたくさんのお客様が父のスイーツを求めて足を運んでくれた。県外から来る人も常連さんもたくさんいた。

 一階のお店にはイートインスペースもあって、そこは毎日のように満員だった。


 両親はお金の心配はいらないと言っていたが、俺は少しでも両親を楽させてあげたいと思って、特待生になれば授業料が免除になる高校を知っていたので、そこに進学することに決めた。そこが春桜高校しゅんおうこうこうだった。

 中学生時代を勉強に使っていた俺にとって特待生で入学することは簡単だった。入試を一位で入学した。

 ちなみに、この学校はスイーツ店からそれほど離れていないところにあった。


 俺は母が作ってくれてた弁当を弁当袋から取り出した。それと同時に弁当のお供に持ってきていた自作のマドレーヌも一緒に取り出した。母の料理は絶品だ。俺はスイーツ作りはできても、料理はできなかった。


「うん。今日も綺麗な焼き色だ」

 

 俺は自分で作ったマドレーヌを眺めてうっとりとしていた。だから、気が付かなかった。忍び寄る彼女の足音に。


「美味しそうなマドレーヌ持ってるね」

「え……」


 この人は確か、神宮司陽彩じんぐうじひいろ。容姿端麗で頭もよくてスタイルもいい。おまけに明るい性格で先生や生徒から信頼されている。友達もたくさんいていつもクラスの中心にいる人物。いつも彼女の周りには誰かしら人がいる。学年一の美少女。そんな彼女がどうしてこんなところに一人でいるのだろうか。


「それ、くれない?」

「え……」


 陽彩は俺の持っているマドレーヌを指さして言った。


「君、さっきから、え、しか言ってないよ」

「え……」

「ほら、また~」


 陽彩は俺の前にしゃがみこんで、顔を見合わせた。

 スカートが短い。今にもスカートの中が見せそうだった。


「今日、弁当忘れてきたんだよね~。もう、お腹ペコペコ」


 そう言って陽彩は自分のお腹をさすった。そしてまた、物欲しそうに俺の持っているマドレーヌを見つめていた。

 別にあげない理由はなかったので、俺は陽彩にマドレーヌをあげることにした。


「……どうぞ」

「いいの? ありがとう~」


 陽彩は俺の手からマドレーヌを取ろうとした。その瞬間、陽彩の真っ白な手と俺の手が触れて、マドレーヌを落としてしまった。


「もう、何してるの。かわいそうでしょ」

「え……」


 陽彩はそう言って、マドレーヌを大事なものを扱うように両手で拾った。


「せっかく美味しそうなマドレーヌなのに」

「……ごめん」

「食べていいんだよね?」

「……うん」


 陽彩は僕に最終確認をすると透明なビニールの袋からマドレーヌを取り出して、観察するようにいろんな角度から見ていた。

 そして、パクっと一口食べた。その瞬間、彼女のほっぺたが落ちるのが分かった。

 陽彩は幸せそうな顔をしていた。


「何これ!? めっちゃ美味しいんだけど!!」

「……」


 俺はホッとした。自分の作ったスイーツを食べられることほど、緊張することはない。


「ねぇ、これどこのマドレーヌ?」


 陽彩が俺に顔を近づけてきて言った。彼女の吐息が伝わってくる。それに、彼女の髪の毛からいい匂いも漂ってきて、俺は思わず後ずさった。


「ねぇ、どこの?」

 

 俺を逃がすつもりはないのか、後ずさった分の距離を陽彩は詰めてきた。どうやら白状しないと開放してくれそうにない。俺は覚悟を決めて言った。

 

「……俺が、作った」

「え!? そうなんだ! 君、凄いね!」


 陽彩の大きな瞳はキラキラと輝いていた。まるで、長年探していた宝物が見つかったような歓喜の瞳だった。


「君さ、もしかして他のスイーツも作れたりするの?」

「……まあ、一応」

「ほんとに!?」


 陽彩がさらに距離を詰めてきた。もう、これ以上は近寄らないでくれ、俺は必死に心の中で願っていた。なのに、彼女の瞳が僕の瞳を離さない。


「また、ここで弁当食べる?」

「おそらく……」

「ふ~ん」


 何を企んでいるのだろうか。陽彩はニヤニヤと何かを考えている様子だった。そして、何かを思いついたのか、いきなり立ち上がって、高らかに宣言した。


「決めた! 私も明日からここで弁当食べる!」

「え……」

「君のスイーツもっと食べさせてよ!」


 陽彩は、満面の笑みを浮かべてそう言った。その笑顔はあまりにもまぶしすぎて直視することできなかった。この笑顔ではいろんな人を虜にしてきたんだろうなと俺は思った。俺も危うく虜になってしまいそうになった。

 

「……わかりました」


 いや、もしかしたら虜になってしまっていたのかもしれない。気がついた時には口がそう動いていた。


「やった! 約束だからね! あ、そうだ。私の名前言ってなかったね。私は神宮司陽彩。明日からよろしくね~」


 陽彩は自分の名前と勝手な約束を言い残して屋上からいなくなった。

 一体何だったんだ。まるで、台風みたいな人だったな。陽彩が人気なのが分かった気がする。彼女は壁が薄いんだ。人と人との間にある壁が極端に薄い。しかも他人の壁を簡単に壊してしまう。だから、彼女にはたくさんの人から信頼されてるんだろうな。

 

 そんな彼女と俺はスイーツを作ることを約束してしまった。

 俺は自分自身がワクワクしているのが分かった。彼女に俺が作ったスイーツを食べてもらいたいと思ってしまっている。


「神宮司さんのあの笑顔があまりにも素直だったからかな……」


 俺はボソッと呟いて、ようやく母の弁当に箸をつけた。


 この日、俺の高校生活の風向きが少し変わった。と同時に波乱の高校生活の幕開けとなるのだった。

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