ふんわり妖精と病気の彼

ゆーり。

ふんわり妖精と病気の彼①




樹齢200年を超える欅の木には妖精が住み着くという噂がある。 街外れ、山間に伸びる田舎道の脇にちょっとしたお屋敷が建っていた。

庭は手入れされているが草木が多く、最たる特徴と言えばやはり屋敷が建つ以前から聳える欅の木だろう。


―――誠二さん、今日もカッコ良いなぁ・・・。

―――本当にいつ見ても素敵・・・。


小人が住みそうな小さな家。 特別なカモフラージュをしているため人間に見つかることはない。 その家の窓からリリーは屋敷を眺めていた。 

服も羽も髪も全て緑で、木の葉に紛れば同化してしまいそうな程。 うっとりと誠二を見つめていると同じ妖精の仲間がやって来る。


「リリー、またあの男の人を見ているの? 本当に好きだよねー」

「だってカッコ良いんだもん! ランも素敵な人だと思うでしょ!?」

「まぁ悪くはないと思うけど。 でも人間に恋をしても駄目だからね?」

「うぅ、分かってるよぉ・・・」


小さな家だが妖精が住むには十分過ぎる程で、中には複数の仲間がいた。 誠二というのは屋敷に住んでいる少年で、いつも音楽をイヤホンで聞きながら読書をしているのが印象的だ。


「どうして人間と目が合うと妖精は消えちゃうんだろう?」

「さぁねー。 でも事実なんだから仕方ないでしょ」

「おーい、今帰ったぞー!」


ランと話しているとレオたちが戻ってきた。 丁度外へ食糧の調達へ行っていたのだ。 ブドウの実を三つ、この辺りにブドウ畑はないため屋敷から頂いてきたのだろう。


「わぁ、美味しそう! リリー、私たちもご飯にしよう」

「うん・・・」


スキップしながら向かっていくランの背中を見ながら、リリーは別のことを考えていた。


―――人間と目が合うと妖精は消えてしまう。

―――だから人間には近付いてはならない。

―――・・・誠二さんへの想いが、片思いで終わっちゃう。

―――・・・でもいいんだ、片思いの方が楽しいって言うし!


リリーもみんなが揃っているテーブルへと急いだ。 早速取ってきたブドウの実を食べながらレオは言う。


「そう言えばこの後、一雨来るってさ。 結構荒れるみたいだから、雨が酷くなる前にもう一度食糧の調達へ行かないと」


その言葉を聞いて、リリーは挙手しながら立ち上がった。


「それ、私も行きたい!」

「えぇ? リリーは危ないから駄目でしょ」

「駄目じゃないもん! 私だって力になれる!」

「そこが心配なんだよねぇ・・・」


ランは呆れたように言ったが、レオがフォローしてくれた。


「仲間が多い方が収穫量も多い。 リリーも来てくれ」

「やった!」

「どうせ誠二さん目的のくせに」

「へへ」


ランの言葉に否定はしない。 先程行ったのが屋敷だとすれば、次の目的地は別の場所。 それでも外へ出れば誠二との距離が近くなるし、間近で拝めるチャンスがあるかもしれない。 

その期待だけで十分だった。 ご飯を終えると早速外へ出る。 だが雨が降る、というのが実際は台風だったのか、ドアを開けた瞬間大きな風が家の中に入ってきた。


「わぁッ!」

「おいリリー、大丈夫か? 飛ばされるなよ」


胸がドキドキするのは誠二の近くに行けるからなのだろうか、それとも危険な冒険に不安を抱えているせいなのだろうか。 レオに支えられながら外へ出ると、ポツリポツリと雨が降り出した。 

風は想像以上に強く、急がなければならないと考えたレオたち収穫組は早速とばかりに出発した。 誠二の家の前を通ったため、リリーは窓を覗き込みたい気持ちでいっぱいだった。 

飛びながら移動することから、二階の誠二のいる部屋が完全に見えるのだ。


―――誠二さん・・・。

―――やっぱり近くで見ても素敵・・・!


だがそれは気の緩みだったことは否めない。 仲間と少しばかり距離ができ、急いで追い付こうと羽を揺らしたところで突風がリリーを襲った。


「わあぁぁぁ!」


前後左右が不覚になる程視界がぐるぐると回るも、これ以上飛ばされないよう必死に何かに掴まった。


―――よかった、これで一安心。

―――でも、このままじゃ吹き飛ばされッ・・・。


ホッと一安心して辺りを確認すると、雨が止んでいて風もおさまっていた。


「ふぅ、助かった・・・。 って、えぇ!?」


助かってなどいなかった。 リリーが捕まっていたのは細い糸を束ねられ編まれた網の目。 大きな丸っこい手に捕まえられ虫かごに入れられる。 

叫びたい衝動に襲われたが、あまりの恐怖に声すら出なかった。


―――どうしよう、どうしようどうしよう!


人間と目が合っては駄目なため、顔を上げないよう必死に下を向いていた。 虫かごがガクンと揺れる。


「お兄ちゃん! 取ったー!」


どうやらリリーを捕まえたのは子供の、男の子のようだ。 少年が走ると虫かごが揺れ胃の中のブドウが暴れそうになった。 揺れがおさまり確認するとそこは見覚えのある場所。

どうやらそこに住んでいるらしい。 


―――・・・ここって、誠二さんの家?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る