勇者パーティーを追放された男。頼む!それでも僕は君らと一緒に旅をしたい!!

上下反転クリアランス

第1話



    【again】


  「サリバン、お前は今日をもってパーティー

  から抜けて貰う」


  「……な……に?」



   サリバン・エンペルこと魔術師なる男は突

  如告げられた残酷な内容に頭が真っ白となっ

  たッ。

   目の前にいる戦士然とした男、アッシュ・

  トールドは冷たい目付きでサリバン・エンペ

  ルこと魔術師なる男を睨むッ。そのことから

  さっきの口にした内容が嘘でないことは明ら

  からかであったッ。

   

   ーー勇者パーティー。そのようなものがこ

  の世には存在するッ。それはいわば精鋭部隊

  であったッ。

   人類の害悪たる魔物ッ。それらを統率する

  魔物の頂点たる【魔王】なる存在を討ち滅ぼ

  すことを、勇者パーティーは目的としていた

  ッ。勇者パーティーとはまさにその目的のた

  めだけに結成された決死の部隊であったッ。

   故に、そのパーティーに参ずる面々各々が

  大いなる決死の思いをもった強き者達ッ。



   サリバン・エンペル。魔術師であるこの男

  もまたその勇者パーティーの一人であったッ。



  「……まってくれ。いきなりそんな……これ

  は、何かの冗談じゃないのか?」


   サリバン・エンペルなる男は取り繕ったッ

  。

   これまで共に魔王打倒に向けて旅をしてき

  た仲だッ。急にパーティーを抜けて貰うなど

  信じることができなかったッ。

   しかし答えは否だッ。違う、と。アッシュ

  ・トールドなる男は首を振るッ。むしろ前々

  から他の仲間達と話し合ってきたこと、との  

  ことであるッ。


  「そ、そんな……」


   あまりの事実にサリバン・エンペルなる男

  は愕然とするッ。しかし、そんな愕然とする

  様も気に入らないのかアッシュ・トールドな

  る男は舌打ちしたッ。

   むしろ今まで一緒にパーティーを組んでや

  ってたことに対して感謝を述べるべきだとも

  発言するッ。


   悲しいことであったッ。サリバン・エンペ

  ルこと魔術師なる男はくっと俯いたッ。


  「な、なにが。……僕の何が不満だったんだ

  ……」


   絞り出すようにそう紡ぐサリバン・エンペ

  ルなる人物ッ。

   顔を上げたッ。アッシュ・トールドなる男  

  と視線が合うッ。

   するとアッシュトールドなる男のその瞳は

  ひどく見開いていたッ。瞳が染まるッ。それ

  は憎悪であったッ。 よくあれだけ無能を晒

  しておきながら、そんな発言をしたものだと

  怒号したッ。侮蔑の視線がサリバン・エンペ

  ルなる男へと向けられるッ。


    

  「ぼ、僕が無能ですって!? 僕はみんな

  のためにこれまで沢山尽くしてきましたッ。

   無能だなんてあんまりですよ!!」


   堪らずサリバン・エンペルなる男はそう返

  すッ。サリバン・エンペルなる男は自らの力

  に自信を持っていたッ。無能と言われること

  に対し我慢ならなかったッ。

   しかしそれでも、アッシュトールドなる男

  の怒号は静まらないッ。彼には彼の言い分が

  あったッ。憎悪を抱くほどにッ。


   だったらあれはなんだ!!と怒号したッ。


   ……あれ? あれ、とは? サリバン・エ

  ンペルこと魔術師たる男は心当たりがなかっ

  たッ。

   何のことかと疑問を返答するッ。



  「とぼけやがって!!今日の昼間のことだ!

  ! てめえ、ロイが敵と接戦してるにも関わ

  らずまとめて焼き払いやがったろうが!!」



   そうッ。それはその日の昼間のことであっ

  たッ。とある魔物の集団と混戦する最中、仲

  間ことロイという男が敵と戦っているにも関

  わらずサリバン・エンペルこと魔術師なる男

  は仲間もろとも攻撃魔術を放ったのだったッ。

   ロイことロイ・カッサベルとは勇者パーテ

  ィーの一員ッ。頼れる戦士であり、仲間の彼

  をもろとも焼いたことにアッシュ・トールド

  なる男は憤怒を示していたのだッ。

   ああ、そのことか、とサリバン・エンペル

  なる男は納得したッ。



  「ーーええ、確かに焼き払いましたよ」 



   そして肯定したッ。しかしそれは必要なこ

  とだったのだッ。サリバン・エンペルこと魔

  術師なる男は真摯な態度をもって口を開くッ

  。


   たしかに自分はその際、仲間ことロイもろ

  とも敵を焼き殺したがそれは効率のため。こ

  れは当時の状況下においてベストな選択であ

  ったことは間違いないと力説ッ

   また、仲間のことも思い、痛みも感じぬ超

  高温をもって焼き殺したこと。救済措置とし

  て当然蘇生の秘薬で彼を蘇生したことからも

  何もマイナスなことはないと懇切丁寧に説明

  するッ。


  「……ということです。理解して頂けました

  か?」


   表情穏やかにそう締めくくるッ。それを聞

  いたアッシュ・トールドなる男は震えたッ。

   ……よかった、とサリバン・エンペルなる

  男もまた自らの誠実さが強く伝わったことを

  確信するッ。

   これで不幸な誤解は解消された。サリバン

  ・エンペルなる男はそう安堵するッ。

    


    

  「こォの外道がァッッッ!!!」



   アッシュ・トールドなる男は咆哮するッ。

  サリバン・エンペルこと魔術師なる男はぎょ

  っとしたッ。

   一体なにをそんなに怒っているのか理解で

  きなかったのだッ。

   困惑した瞳をアッシュ・トールドなる男へ

  と向けるッ。

   

  「……あ、アッシュ?」

  「そういうところッ、まさにそういうところ

  だッ!!」


   アッシュ・トールドなる男は我慢ならない

  とばかりに指を差し向けたッ。

   たとえ蘇生できるからとはいえなんの躊躇

  いもなく仲間を殺すことができるその精神は

  異常だ。まさに外道の所業。そんな人間をと

  てもじゃないが仲間として受け入れられるこ

  とはできない、とのことであるッ。

   その内容に矛盾はなかったッ。倫理的に、

  道徳的にになにも間違ってはいないッ。蘇生

  できるとはいえ仲間を躊躇いなく殺す人間に

  対し怒りを覚えるの至極当然のことであるッ

  。

   しかしサリバン・エンペルこと魔術師なる

  男は理解及ばず困惑するしかなかったッ。

   そ、そんな……、と震えた声を露呈させる

  ッ。


  「ま、まって下さい、アッシュ」


   よろよろと覚束ない足取りでアッシュ・ト

  ールドなる男の元へと歩みより、地に膝をつ

  けるッ。

   そして乞食のように願ったッ。彼の足へと

  しがみつき哀れなまでにその慈悲を願ったの

  だッ。


  「どうか……どうかこの僕にチャンスを下さ

  い! 貴方が気に入らないというなら、二度

  とこのようなことは致しません。ですからど

  うか……」


   アッシュ・トールドなる男はそれを聞いて

  大 層ガッカリしたッ。

   ……これまで再三に渡って指摘してきたこと

  だろうが、と侮蔑の視線とともに指摘するッ。

  まさにどうしようもなかったッ。

   サリバン・エンペルなる男はうぐっと呻く

  様を露呈させるッ。正論であったのだッ。言

  い訳のしようもなかったッ。しかし今回は本

  気であったッ。 


   サリバン・エンペルなる男は切実なる思い

  とともに懇願するッ。

   

  「こ、今度こそ。今度こそはやってみせます

  から。だからどうかっ」


   しかし、現実は厳しかったッ。アッシュ・

  トールドなる男は首を静かに振ったッ。無情

  なる沙汰が下るッ。




  「サリバン・エンペル、お前は勇者パーティ

  ーに相応しくねえ。

   今日をもって、てめえを解雇とする」





   

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