アオジシ
猫文字 隼人
第1話
僕は扇風機の風量を一段階上げて、PCのディスプレイに表示されていたニュース画面に視線を戻した。
そこに表示されているのはここ最近テレビを騒がしていた連続猟奇殺人事件、犯人である男が逮捕されたという特報記事だった。
犯人は小丸■平51歳、無職。
古いアパートからフードも被らずぼうっとした表情で警察から両脇を抑えられて連れ出される様子が大きく映し出されている。
被害者は少なくとも4人以上。
彼の引き起こした事件の内容は文章で読むだけで吐き気を催すほどの酷いものだった。ある程度控えめに書いてあるであろう記事ですら嫌悪したくなるほどに。
だが、僕はどうしてもその写真から目を離せない。
なぜならどうして彼がそのように酷い事件を引き起こしたのか、僕は知っているからだ。
側のデスクに置かれたぬるい水の入ったグラスを手に取り一気に中身を飲み干すも、食道にまとわりつきながら胃へと落ちていく水は何一つ気分を明るくしない。まるで腐った水のように僕の腹の中でずんと重く暗く佇んでいる。
事件が起きたのは犯人が住んでいたX県であり、僕の住む町からは随分離れている。
本来なら何の接点も無い僕と犯人。
だが僕はこの犯人に一度だけ会ったことがあるのだ。
ならば、やはり彼をこの様な凶行に走らせた原因はあれしか……5年前の出来事しか考えられない。
「……そんなわけが……」
あるはずがない。
だっておかしいじゃないか。
今の時代にそんなおかしな話があってたまるか。
けれど実際は?
現実から逆算しても、本当にそう言えるのか?
震える右脚に拳を叩きつけて、身体の芯からあがる悦びを痛みで黙らせる。
もう一度、もう一度。
何度も自分の拳で打たれた太ももは歓喜するかのように熱を発している。
こんなことをしても長くは持たない事くらい理解していたが、今の僕にとって他にできることは何一つなかった。
「ちくしょう……なんでこんな事になってしまったんだよう……」
涙を流しながら、僕は嗤っている。
扇風機は相変わらず生ぬるい風を僕に送っている。
全ては5年前のあの夏、僕があの村に訪れたことが原因だった。
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