スーサイドプロモーション

綿麻きぬ

この世界で価値ない僕

 僕はスクランブル交差点の真ん中から大きなモニターを見ている。そこには政府が出したプロモーションビデオが流れている。誰もが見たことある映像だ。その映像はよく


『スーサイドプロモーション』


 と呼ばれる。簡単に言うと政府が人口増加を抑制するために使いものにならなくなった人間を処分していこうというものだ。


 これなら別にスーサイドとは呼ばれないだろう。だが、これはちゃんと呼ばれる所以がある。本人に呼び出しがかかるわけではなく、自分で自分の処分を申請するのだ。周りの圧力により自分自身で死を選ぶのだ。


 この世界は使えないものに容赦がない。自分より劣っているものに価値などない。そしてそれらは捨てられる。記憶からも消されてしまう。存在すら跡形もなく消去される。


 そんな世界で僕はどうだろうか。


 小さいころはまだ優秀な方だっただろう。だが徐々に僕の価値は減っていった。周りの方が価値ある人間になっていった。


 そんな中、僕は頑張った方だと思う。周りから死を望まれながら、生きている。だけど、もう限界が近い。


 そして僕は今から申請書を出しに役所へ行く。交差点の真ん中でスーサイドプロモーションを見ながら、自分の行く末を考えている。


 申請が通ったらどうなるのだろうか。死後の世界はどうなるのだろうか。僕の周りの人はなんて思うのだろうか。色々と思いが巡る。


 全ては価値のない僕が悪いのだろうか。そうだ、この世界では価値のない僕が悪い。だけど、絶対に僕は悪くない。そう信じないと僕はもう僕を保てない。


 これから僕を殺す社会に僕は殺されたくない。だから僕は僕を殺す。


 例えばここで僕が僕を殺して、人々の記憶に残ったとする。それが一瞬だったとしても、僕は満足だ。少しでも爪痕を残せるのだから。


 そう考えた他人から見たら透明な僕はスクランブル交差点の真ん中から大きなモニターを凝視しながら、死を選んだ。

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スーサイドプロモーション 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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