やるせなき脱力神番外編 武神

伊達サクット

番外編 武神

 剣を携えたヒューマンタイプの戦士、平従者ヤラーレは仕事帰りの途中であった。


 ろくに悪霊退治の任務もこなしていないので、ほぼ歩合制のワルキュリア・カンパニーではろくな給金をもらえなかった。


 財布の寂しい感触を手で味わいながら、溜め息混じりに舌打ちをして家に向かっていた。


 すると、人が二人分ぐらいやっと通れるかという道に、どす黒い筋肉を持つ大男が立ちはだかっているのである。まるで狭い通路に闇そのものがのさばっているかの如く。


 ヤラーレは自分には関係のないことだと思いながら、道の右端に寄り、真っ黒な大男の脇を通り過ぎようとした。


 すると、大男は自らの体をヤラーレの真正面にスッとスライドさせ、道を塞いだのである。


 ヤラーレはケツアゴを下に降ろし、タラコ唇を半開きにした。両者沈黙。


 ヤラーレは道の左端に体を寄せる。すると大男も体をスライドさせヤラーレの真正面に立ち道を塞ぐ。


 ヤラーレは通り過ぎようと右へ左へと避けようとするが、それに連動して黒い大男は道を塞ぐ。


「……我、武神なり」


 大男は口を開いた。


「ぶ、武神だと!?」


 ヤラーレは聞き返す。


「いかにも。我、けんを極めたり」


「何ぃ!? け、けんを極めただと!?」


 ヤラーレは一歩後ずさりした。相手からはどうにも只者ではなさそうな威圧的な雰囲気が漂う。


「この世にシャクレはいらぬ! シャクレは死あるのみ!」


「な、何だと!? さては貴様悪霊か!?」


 ヤラーレは腰の鞘に手をかけた瞬間、相手の黒い筋肉に覆われた腕が襲いかかる。巨大な手がヤラーレのケツアゴをつかむ。


「我武神なり!」


 武神はケツアゴを持ったままヤラーレを持ち上げ、通路を隔てる壁に勢いよく叩きつけた。


「ギャアアアア!」


 壁は音を立てて崩れ、叩きつけられたヤラーレは頭部から滝のように血を流し、白目を向いて死にかけている。


「ひいいぃぃ……。し、死むぅぅぅ……」


「言ったはずだ! 我が覇道に立ち塞がる者は死あるのみだとな!」


 倒れて痙攣しているヤラーレの脇腹を武神は激しく蹴り飛ばした。


「うげぶっ!」


「貴様ああああああああっ!」


 武神は突如として目を血走らせ激昂し、ヤラーレの頭をつかんで無理矢理立たせた。


「い、命だけはお助けを……」


 白目をむいてうわ言のように命乞いするヤラーレ。


「あ~たたたたたたたた!」


 武神は両手の人差指を突き出し、何やらヤラーレの全身を突いた。


「ヒイィィィー! い、一体何を……」


「貴様のツボというツボをとにかく突きまくった! よって貴様は死あるのみ!」


「ええええ~っ!? そ、そんな~! そんな北〇の拳の敵みたいに死ぬなんて嫌だああああ~!」


「死んで詫びろ! 死んでこの武神に詫びろ! だが謝罪は一切受けつけぬわ雑魚が!」


「うげぼぼぼぼぷぺぴにゃん!」


 断末魔の悲鳴と共に、ヤラーレの体全体が膨らみ破裂した。




 武神は敵を倒した。


 14の経験値、12Gギールドを得た。




「ふ、ふは、ふははは……。ハーッハッハッハッハッハァ! ハーッハッハッハッハッハァ! ハーッハッハッハッハッハァ!」


「コラーッ! うるさいぞ! 近所迷惑だぞ! バカモーン!」


 近所のカミナリ頑固おやじが横切り、武神を叱り飛ばした。


「すいません」


 武神はシュンとした。


「バカモーン!」


 カミナリおやじは去っていった。




 武神は毎日このようなことをしていた。




 その後、武神は逮捕・起訴され王立裁判にかけられ、下級裁判所の一審で死刑判決。判決を不服として即日控訴したが上級裁判所は一審の判決を支持し控訴を棄却。


 最終裁判所に上告したが棄却され死刑が確定した。




「バカモーン! うるさくしてるからそういうことになるんだ! 静かにしろ! バカモーン!」


 下級裁の傍聴席から、カミナリ頑固おやじの怒声が発せられ、法廷に鳴り響いていた。裁判の最中も、閉廷後も、いつまでも鳴り響いていた。


「バカモーン! コラーッ!」


<完>

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