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 教室を出た俺たちは、クラスメートに宣言した保健室ではなく、校舎の屋上へ向かった。


 ここはTSPで開ける寮などと違い、差し込むタイプのリアルな鍵で施錠されている。鍵は職員室で保管されているはずなのだが、なぜか蓮と一緒なら入れてしまう隠れスポットだ。

 何で鍵を持ってるのか、なんていう問いはもうしない。気にしたら負けだ。

 この学園には、まだまだ高等部からの外部生である俺には分からないことが数多くある。

 暗黙のルールもたくさん。もう覚え切れる気がしない。分からないことは流されてしまうに限る。じゃないと頭がパンクする。


 屋上のドアを開けると、何とそこには先客がいた。

 こちらを見据えていた少年は、入ってきたのが俺たちだと確認すると、鋭くしていた視線を和らげる。

 柵に預けていた体をこちらに向けて、にこりと微笑みかけてくれる。可愛い。



「蒼葉くんに城ヶ崎くん、おはよ〜。またサボり?」

「おはようナギ。うん、サボり。ナギは今日も可愛いね」

「もー、蒼葉くんったら。そんなんサラッとゆっちゃうから、女神様なんて言われるんやで?」

「どこがどうつながるのか理解不能だけど、ナギが可愛いのは事実だから仕方ないよな」



 彼は中邨なかむら夕凪ゆうなぎ。俺はナギと呼んでいる。

 陽希とは従兄弟らしく、陽希より可愛らしい感じの関西弁で話す男の娘。2-Dのクラス委員長で、抱きたいランキングは10位だ。


 Sクラスが家柄・容姿・成績が完璧のエリートクラスなのに対し、Dクラスはその反対。

 成績がすこぶる悪い生徒や、生活態度が悪すぎる生徒など、問題児を集めたクラスだ。

 そもそも何らかの問題がないとここまで落ちないので、クラスの人数は15人と、他と比べても圧倒的に少ない。

 ちなみに蓮がここにならないのは、家柄がかなり良いのと、校内で喧嘩などの問題行動をほとんど起こさないかららしい。


 そんなクラスに、こんなに可愛らしいナギが在籍しているだけでも驚きなのに、クラス委員長を務めている理由。

 それは、ナギの家がヤのつく家だからに他ならない。

 彼は全国で名の知られている、中邨組の跡取り息子なのだ。そのため、ありとあらゆる武術を嗜んでおり、可愛い顔に反してものすごく強い。


 ナギは、その家柄と可愛らしい容姿をバックに、実力と天性のカリスマ性で、バラバラなDクラスを綺麗に纏めあげた。

 その名声は学年を超えて広がっており、どの学年のDクラスでも、ナギの一声で統率出来るらしい。マジですごいよな。


 実力まで兼ね備えているからなのか、自分より弱い人間に興味の欠片も示さない連も、ナギとはそれなりに話す。とはいえ、蓮の人見知りは度が過ぎるけど。


 俺たちがナギの近くに着くと、ナギはもたれかかっていた柵から体を離し、伸びをする。



「さてと。僕はそろそろ教室戻ろかな」

「えー、戻るのか?」



 新学年が始まって、2週間と少し。お互い忙しくて、あまり会えていなかった。

 ちょっとはお喋りとかできるかなと思っていたのに。


 ナギはTSPを確認して、こくんと頷く。



「うん。もとより僕は、ちょっと電話したかっただけやしね」

「…それでここまできたのか?」

「そうやよ〜。教室の近くで電話したらあいつらうるさいんよね」

「あー、Dクラスってナギ信者が多いもんなぁ」



 少し困ったように微笑むナギは、学年を問わずDクラスの面々にとても愛されている。

 そういえば今ここにはナギ1人だが、普段は必ず誰かといるイメージだ。特に校舎にいる間は強面の人を引き連れていることが多い。

 そうなると、誰かと電話するといっても、なかなか1人になれないのかもしれない。なるほどそれは少し面倒かも。

 遠巻きにじっと見つめられ続けるのと、どちらがいいだろう。いい勝負だったり。



「そんなことゆうて、Aクラスの女神様信仰も十分すごいと」

「もう、ナギまでマジでその呼び方やめてくれ…」

「あはは、ごめんね」



 楽しそうにころころと笑うナギ。

 女神様呼び。

 悪口ってわけじゃないんだけど。からかうように友人に言われるのは、何だかなぁ。

 本来なら、是非ともやめて欲しいところだし。

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