第33話 それぞれの戦い
「ギルマスどうするんですか!? イルゼちゃん一人で行っちゃったんですよ。いくらSランクだからって危ない組織に一人で行くなんて危険すぎますよ。それにあんなに可愛い子がすっごい強いなんて未だに信じられません!」
「それには私も同感ね」
イルゼが『剣聖』である事を知らないサラ、エルサの二人はイルゼの醸し出す独特な雰囲気からそれなりの実力者だという事は理解できるが、幼い頃からライアスの強さを目の当たりにしてきた彼女達にとって、いくらランク上イルゼとライアスの実力は同程度ですと言われても素直に頷けるわけがない。
実際にイルゼの戦闘を見たリーゼでさえも、未だに自分が見たものを信じられないでいるのだ。
「ギルマス! 俺が今集められる冒険者の半分を引き連れてイルゼとリリスの捜索にあたる! 残りの半分はギルマスと一緒に王立図書館の奪取を」
「いや、王立図書館はワシ一人で十分だ。それにリーゼさんと言ったか?」
「は、はぃ〜!」
強面なライアスに呼ばれたリーゼは、おっかなびっくり座っていた椅子から立ち上がる。
「そんな怯えんでもいい。若い頃のワシならば食っていたかもしれんが今のワシにそんな元気は無い」
「へ?」
リーゼの豊満な双丘に、にんまりと頬を緩ませ、隙あらばセクハラ発言をするライアスの耳をエルサが思いっきり引っ張る。
「いだだ!!」
「まったく……リーゼさん。このエロじじいの事は気にしないで下さいね。私達が子供の頃はこんなに酷くはなかったんですけど……」
「まったくだ」
「本当だよね」
エルサ、ルブ、サラから蔑んだ目を向けられても、ライアスはそんな事では挫けない。
「それはさて置きリーゼさん。図書館で見た使徒達は自爆行為を行うのだろう」
「はい。下手に追い詰めると仲間もろとも自爆してきました」
「ならば、やはりワシ一人で行くのがよかろう。ルブ達に任せてもいいのだが万事解決とまではいかないだろう? 少なからず怪我人が出るとワシは思うのだが?」
「…………それを言われると何も言えないな」
「では決まりだ。ワシが図書館へ、ルブ達がイルゼちゃん達の捜索に動いてくれ」
「分かった」
「ねえルブ。イルゼちゃんが居そうな場所の辺りはつけてるの?」
「…………」
「もしかして考え無しで行こうとしてた?」
サラには痛い所を突かれるなとルブは頭を掻く。イルゼが向かった場所などルブには見当もついていないのだ。
「いや……正直言って全然わからねぇ。冒険者を総動員させればなんとか……」
「闇雲に探したって見つかるものも見つからないよ」
「それは分かってるんだが」
「……ルブ。関係しているかは分からないのだけれど、この間のスラム街で起きた事件に、もしもオメガの使徒とやらが関わっているなら何かしらの手掛かりがあるかもしれないわよ。闇雲に探すよりずっといいと思うわ」
「そう……だな。まずはスラム街へ行ってみよう。もちろん人数を分けて他の場所も探させるが」
エルサの発言を受けて、改めて方針を固めたルブは早速行動に移る。
ライアスは一足先に王立図書館へ一人で向かった。
ライアスが出て行った後、サラは不安そうに窓の外を眺めていた。
一人で王立図書館へ向かったギルマスの事が心配なのだろうかとエルサは声をかける。
「どうしたのサラ? 貴方らしくない」
「…………エルサ。ここには来たりしないよね?」
「オメガの使徒が? まさか、来るはずないでしょ。そんなに人数がいるとは思えないし」
「そうだよね。えへへ、良かった」
どうやらギルマスの心配より、自分の心配をしていたようで、いつものサラだった事にエルサは安心した。
一部の冒険者は残って冒険者ギルドを守ってくれている為、ここにいれば安全なのだ。
少なくとも外よりは危険が少ない。
「ねえ、サラ。ギルマスが戻ったら話したい事があるの」
「いいけど、今じゃだめなの?」
「駄目ではないけど……」
珍しく口籠る幼馴染を見て、「ううん?」とサラは首を傾げる。そして「あれあれもしかして〜」と小悪魔のような笑みを浮かべ始める。
「もしかして好きな人が出来たとか!?」
「違うわよ! こんな時に何言ってるのよ!!」
エルサが顔を真っ赤にしながら否定する。サラは「ホントかな〜」と言って、エルサをからかう。
他の職員が廊下で戯れている二人を見つけ、声をかける。
「サラ! エルサ! 手が空いてるならこっちもお願い」
「あ、はーい」
「わかったわ」
サラとエルサ、受付嬢達は情報収集に努め、新しい情報が入り次第、宝珠型の通信機でルブ達に情報伝達を行う。
ルブは他の冒険者に話せる限りの事情を伝え、『オメガの使徒』の撃滅を謳った。
冒険者達も自分達の街で『オメガの使徒』などというわけの分からない連中に好き勝手されるなど、この街の冒険者として見過ごすわけには行かなかった。
そしてその中にビルク達が加入してると知るや否や「あの野郎ぶっ殺してやる!」、「リリスちゃんを誘拐するなんて、ふざけた事しやがって!!」と次々に声が上がった。
そしてまとめ役のルブが、集まった冒険者達に発破をかける。
「Sランク冒険者であるイルゼが簡単に死ぬとは思えないが、早く見つける事には越した事はない。行くぞお前ら! うちの姫様達を助けに行こうぜ!」
「「「おお〜!!」」」
ギルドの外で大きな歓声が上がる。
ここに集まった冒険者達は、冒険者としての義務として来たわけではなく、純粋にイルゼとリリスに対する好意から集まった者達である。
そのうちの殆どは美少女を虐める奴等は許さねぇー! という強い信念の持ち主達だ。
イルゼ達がやって来たのは数日前だというのに、これほどの人気を博しているのはひとえにその純粋無垢な人柄とポンコツさ故だろう。
街で楽しそうに観光しているイルゼ達をみると、どんなに強面な男性や頑固な老人でも思わず頬を緩めてしまう魅力が二人にはあった。
二人はこの街の人々から自然と愛されていたのだ。
日々の生活の賜物である。
毎日のように黒髪の美少女と銀髪の美少女が街中を歩き回り、元気に「おはよう」と声をかけてくれれば、それだけで今日一日が充実したものになるのは間違いない。
彼女達のそんな何気ない一言に救われた者だっている。
イルゼ達の知らない所で、イルゼ達の評価はうなぎのぼりになっていたのだ。
だからリリスが何者かに連れ去られたという話をすれば、住民達は「そうねー。リリスちゃんとイルゼちゃんはよくあの店で食べてたわよ。え、どっちに走って行ったかって? すごい勢いで向こう行ってたわよ」など、どんなに些細な情報でも快く教えてくれるのだ。
そして、今まで水面下で活動していた使徒達が図書館を占拠するという囮を兼ねた凶行に走り、表舞台へと姿を現した事でその存在は民衆に認知され、いよいよ『オメガの使徒』という組織の存在が広く世に知られていく事になった。
◇◆◇◆◇
「ふふっ、そろそろだね。今度の計画は成功するといいな」
使徒達からマスターと呼ばれる彼は、暗い部屋の中で黒の宝玉で装飾がなされた玉座に座り、静かに嗤っていた。
彼は管理者の水晶玉から届くランドラの街の映像を見ながら事の流れを見守っていた。
「君には期待してるよ、”人形遣い”」
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