第44話 護衛
今日から五日間の予定で、ミマスまでの往復の護衛依頼です。
白銀亭を出る時、ミーヤさんに必ず五日で帰ってくるように念を押されてしまいました。
先ずは、依頼先のエドワード商店に向かいます。
そこから王都を出発し、途中の街で一泊。二日目の夕方にミマスに到着。その翌日はミマスに滞在、商人のエドワードさんは取引を行い、私たちは自由行動です。その翌日、四日目の朝、ミマスを出発。また街で一泊して、五日目に王都に戻る予定です。
「エドワードさん。おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう。今日からよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「早速だけど、馬車に乗るスペースはこれでいいかな?」
エドワードさんの荷馬車には、既に私たちが乗るスペースが用意されていました。
私はマーサルに確認すると大丈夫そうなので、そう、エドワードさんに伝えます。
「それで大丈夫なら、店の裏の倉庫に来てくれ。ストレージに入れてもらいたい荷物はそっちに置いてある」
私たちは、エドワードさんの後について、店の倉庫に行きます。
「それじゃあ、これを頼むよ」
「わかりました」
マーサルが返事をして、荷馬車に載る量の半分近い量の荷物をアイテムボックスに入れます。
本当なら、マーサルのアイテムボックスは、いくらでも荷物が入るのですが、それは隠しておいた方がいいでしょう。
荷物を入れ終わったら、荷馬車に乗り、出発です。
荷馬車ですから乗り心地が良いものではありませんが、檻の中でない分、随分とましです。
城門を抜け、平原に出てからは、知覚強化で周囲の警戒にあたります。
街道が森を抜ける時は、より一層注意を払います。マーサルもどこから襲われても対処できるように気を張っているようです。
結局この日は、魔獣に出会うことも、盗賊に襲われることもなく、無事、宿泊予定の街まで到着しました。
初めての護衛で疲れたこともあり、宿で食事を取ると、早めに床についたのでした。
二日目の朝、昨日早く寝たこともあり、疲れも取れてスッキリ目覚めることができました。
そういえば、昨夜は、ここのところ見続けていた学園の夢を見ませんでしたね。余程ぐっすり寝てしまったのでしょう。
朝、街を出発すると、順調に荷馬車は進み、何事もなく、お昼近くなりました。そろそろお昼の休憩時間になると考えていると、前方から何か集団が近付いて来るのを感じました。
「エドワードさん。前から何か集団が来ます!」
「え、何も見えないけど?」
「取り敢えず、荷馬車を止めてください。様子を見てみましょう」
「わかった」
エドワードさんは馬を操って馬車を街道の端に止めます。
しばらく待っていると、沢山の騎士に守られた豪華な馬車が見えて来ました。
「盗賊の類ではないようだな――」
「そうですね。王族か何かでしょうか?」
「多分、聖女様じゃないか?」
「聖騎士隊ということですか――」
そう言われれば、王都で見かけた時と同じような装備に見えます。
しかし、その規模はその時の何倍もの規模です。ざっと見ても百人近い聖騎士が護衛に付いているようです。
「街で聞いた噂によると、一昨日、聖女様と聖騎士隊がミマスに向かわれたそうだ。その帰りじゃないか?」
「聖女様がミマスにですか? 何の用だったのでしょう?」
「さー。そこまでは噂になっていなかったが、ミマスに着けばわかるんじゃないか?」
結局、聖女様一行が通り過ぎるまでそこで待つことになりました。
聖女様が通り過ぎる時に、馬車の窓からお顔を拝見できるかと見ていましたが、あいにく、馬車の窓は閉ざされたままでした。
聖女様と聖騎士隊が行きすぎた後、私たちはミマスに向けて出発し、道中なんの支障もなく、その日の夕方早いうちにミマスに到着したのでした。
そりゃあ、百人規模の聖騎士隊が通った直後に、魔獣なんて出るはずありません。盗賊だって、どこに聖騎士隊の見張りがいるか分からないのに、街道に近付いたりしないでしょう。
宿は、エドワードさんが自分が泊まるのと同じ、高級な宿を用意してくれました。
「こんな高級な宿まで用意していただいてすみません」
「これも、契約の内だよ」
「ですが、護衛として活躍する機会は一つもありませんでした……」
「襲われなかったことはいいことだよ。それに、まだ、帰りもあるからね」
「帰りこそ、活躍してみせます!」
「それでは、襲われるのを心待ちにしているようだよ」
「あ、そういうわけではないのですが……」
「私としては、襲われない方がいいし、実は、マーサルさんのストレージで運んでもらった分で大分儲けが出ているから、本当に気にしないでくれ」
「では、ありがたく、泊まらせていただきます」
私たちはエドワードさんにお礼を言って、高級な宿の部屋に入ります。
白銀亭の部屋と比べると広さは四倍くらいあり、ソファーやテーブルなどの家具も揃っていて、ゆっくり寛げそうな部屋でした。
しかし、私はまだゆっくり寛いでいるわけにはいきません。
明日、冒険者ギルドに行く前に、情報を集めておかなければなりません。
何故ギルドが混乱しているのか、ウドは私が髪を染めているのを知っているのか。教会は何故私を探していて、そして、聖女様は何をしにミマスに来たのか。
素人の私に情報を集めるのは難しいかもしれませんが、冒険者はよく酒場で情報交換をしているのを知っています。
「マーサル、酒場に情報を集めに行きましょう」
「ミハル、それは難しいと思うよ」
「大丈夫、情報の聞き出し方は冒険者から聞いているわ」
「そういうことを言ってるんじゃないんだけどな――」
「つべこべ言ってないで、行くわよ!」
結論から言えば、酒場で情報を集めることはできませんでした。
情報を聞き出す以前に、酒場に入れてもらえませんでした。
十五歳以下入店禁止と言われて!!
私は二十歳過ぎです! 解せません。
ギルドカードを見せて、十六歳だと説明しても、こんなチビがCランクのわけないだろうと、取り合ってもらえませんでした。
Cランクにランクアップしたことで、普通なら信用が上がるのに、逆に仇になってしまいました。
目ぼしいところを何店か回ってみましたが、どこも入店を断られ、仕方がないので、宿に戻ることにしました。
「全く、どこも失礼しちゃうわ!!」
「その見た目じゃ仕方ないよ」
「マーサルまで、そんなことを言うの!」
「そんな怒らないで、宿の食堂で豪華な夕食を食べようよ」
「まったく、食べ物で釣ろうとするんだから!」
文句を言いつつも、高級な宿の食事も気になり、宿の食堂に向かいます。
食事は、宿の格に合った高級な物でした。
そして、あちらこちらから、ギルドと聖女様の噂を囁く声が聞こえてきたのでした。
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