第29話 夢の話2

 放課後、昇降口で靴に履き替え校舎を出たところで、私は一人の女生徒に呼び止められました。


「美春さん、少しお話したいことがあるの。いいかしら?」

 この人は、確か生徒会の副会長をしている、三年生の百瀬咲良先輩だったはずです。

 ということは、私は、また、夢を見ているのでしょう。


「はい、構いませんが、どういったお話でしょう?」


「教室にクーラーが設置されたのは、あなたの発案だそうね」

 最初に言い出したのは、衣織さんだったはずですが、そのことをいっているわけではないのでしょね。


「それがどうかされましたか?」

「今からそんな人気取りをして、あなたも生徒会長になるつもり?」


「いえ、そんなつもりはありませんが」

「嘘おっしゃい! あなたも、あいつみたいに、不正なことをしてでも生徒会長になるつもりなんでしょう!!」


 何なんでしょう? この訳のわからない言いがかりは。

 多分、あいつというのは、まー兄さまのことなのでしょう。

 現在、三年生のまー兄さまは生徒会長をしています。


「それは、まー兄さまが何か不正をしたと仰っているのでしょうか?」

「そうよ、去年、私と生徒会長の座を争った選挙で何か不正をしたのよ!」


「それは、何か証拠でもあるのでしょうか?」

「私が選挙で負けたのが何よりの証拠よ! 本当なら私が負けるはずないわ。絶対に何か不正をしたのよ!!」


 この人は頭がおかしいのでしょうか?


「成績だってそうよ。いつも私が二位なんて、不正をしている以外あり得ないじゃない!」


 成績がまー兄さまに次いでいつも二位とは、勉強はできるのですね。

 しかしながら、この絶大なる自信はどこからくるのでしょうか?


「そんな、言いがかりもいいところです。話になりませんから、私、行きますね」

 私が呆れて帰ろうとすると、百瀬先輩に腕を掴まれてしまいました。


「待ちなさいよ! まだ、話は済んでないわよ!」

「離してください!」

 私は掴まれた腕を振って、振り解こうとします。


「待ちなさいと言ってるでしょ!!」

「離して!!」


「どうかされたのですか? 咲良先輩」


 私たちが揉めているところに、男子生徒が現れ、百瀬先輩に声をかけました。


「裕之君。これは何でもないのよ。ただ話をしていただけよ――」


「そうなのですか? 美春さん」

「ええ、まあ、そうね」


 この男子生徒は確か同じクラスの……? 何という名前だったかしら?

 百瀬先輩からはヒロユキと呼ばれていましたが、そんな名前だったでしょうか?

 クラスでは目立たない存在で、前髪で顔がよく見えないのですが、その割には、以前見た夢で、女の人と一緒にいるのをよく見かけた気がします。

 実は、髪を上げるとイケメンだったという設定が……。設定ってなんでしたっけ? そうです! 以前見た夢では、髪を上げるとイケメンでした!


「咲良先輩、この間は、子猫の里親を探していただきありがとうございました」

「生徒会の副会長として当然のことをしただけよ」


「子猫の里親って?」

「実はこの前、学校の体育館裏で子猫を拾ったんだけどね。

 どうしようかと悩んでいたら、通りかかった咲良先輩が里親を探してくれたんだ」

「学校でのことですからね。生徒会の仕事の内よ」


 百瀬先輩が照れたようにそっぽを向きます。

 へー。そんな一面もあるのですね。


「そういえば、教室にクーラーが設置されたのは、美春さんのおかげなんだってね」

「私のおかげというわけではないのですが……」


 百瀬先輩が、今度は私を睨んできます。


「批判的な人もいるようだけど、僕は感謝しているよ」

「いえ、そんな……」


「僕はね。咲良先輩のことにしろ、美春さんのことにしろ、何かを成せる力のある人は、それを成すべきだと思うんだ。

 その力には当然お金も含まれるんだけどね」


 百瀬先輩はバツの悪そうな顔をしています。


「それじゃあ、僕は先に行くね」

「裕之君。またね」

「また、教室で」


 取り残された私と百瀬先輩は、気まずい顔で見つめ合うことになりました。


「それでは、百瀬先輩失礼します」

「ええ、さようなら――」


 私は百瀬先輩に挨拶して歩き出します。

 そういえば、寝る前ミーヤさんと同じような話をしていました。

 その影響でこんな夢を見ているのでしょう。

 百瀬先輩の理不尽な態度は、私のギルドに対するわだかまりが見せたものでしょうか?


 夢の中でそんなことを考えながら私の意識は薄れていきました。


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