舞台裏7 ウド

 馬車の下敷きになっていた、Bランクパーティ、ブラッククロウのウドが意識を取り戻したのは、シルバーウルフに襲われた翌日の朝になってからだった。

 たまたま、荷台の隙間に入り込み、頭を打って意識がなかったものの、身体の異常は打身程度であった。


 今まで、完全に意識がなく、半ば仮死状態だったため、ミハルに察知されることもなく、シルバーウルフからも見逃されることとなった。


 ウドは馬車の下から這い出すと辺りを見渡した。


「生き残ったのは俺だけか?」


 元仲間のものと思われる残骸が辺りに散らばっていた。


「檻は開いているな。鍵が開いているところをみると、囮にしたのか?」


 プランタニエが閉じ込められていた檻を確認しながら、あの二人なら、それぐらいのことはしただろうと、ウドは考えていた。


 ウドは、現場の確認もそこそこに、先ずは安全な場所まで移動しようと、村を目指して歩き出した。


 運良く無事に村に辿り着いたウドだったが、村の前で、門番に止められてしまう。


「黒髪の身元不明者を見なかったか!」

「黒髪の身元不明者?」

 門番に問いかけられ、ウドは考え込んだ。


[黒髪といえば、プランタニエのことだろう。

 ということは、既にギルドが俺たちが行方不明だと気付いて、捜査しているのか?

 それにしては手配が早すぎないか?

 俺の他にも生き残りがいたのか?

 暁の明星の奴らだとしたらまずいことになったぞ。]


「そいつがどうかしたのか?」

 ウドはそ知らぬ顔で門番に尋ねる。


「何をしたか知らんが、教会で探している」

「教会? ギルドではなくてか?」

「そうだ。情報提供者には多額の報酬が支払われるそうだぞ」


 ギルドでなく何故教会が捜索しているのか疑問に思ったが、多額の報酬の方が気にかかった。


「教会に行けば報酬がもらえるのか?」

「何か知っているのか? なら、教会は右手に見える高い建物だ」


 ウドは村の教会に向かった。


 教会で、プランタニエのことを伝え、報酬を要求すると、情報が正しいか確かめるから、そのまま教会にいるように言われ、ウドは、その日は教会に泊まることになった。


 そして二日後、ウドは教会の聖騎士隊とシルバーウルフに襲われた現場に来ていた。


「この檻が、黒髪様が閉じ込められていた檻なのだな?」

「はい、その通りです」

 聖騎士隊長は威圧的な態度で質問し、ウドは少し怯えながらそれに答えていた。


 最初の教会では、ウドに好意的に話を聞いてくれたのに、聖騎士隊長の態度は全く逆だった。

 これは、黒髪に対する認識が、教会内でも上位者とその他の者では違うためだった。


 黒髪が黒神であることは、教会内部でも上位者のみにしか知らされていなかった。


「鍵が開けられているが、いつ、開けられたんだ?」

「馬車が転倒した時には鍵がかかっていたはずです。俺はその時意識を失いましたが、翌朝、意識を取り戻した時には鍵は開いていて、中は空でした」


「そうか、なら、死んだ冒険者が死ぬ前に開けたのか、それも、黒髪様が開けられたのか。

 檻の中で殺されたようすはないから、檻から外に出たのは間違いないな。

 その後、上手く逃げられたか、それとも……」


「仲間が上手く逃したかもしれませんぜ!」

 ウドは仲間がプランタニエを囮にしたかもしれないとは言わなかった。

 聖騎士隊長の態度から、流石にそれくらいの空気はウドにも読めたのである。


「ならいいのだがな!」

 聖騎士隊長はウドを睨みつけた。何か隠しているだろうと疑っているのだ。


「何か、黒髪様の遺留品は見つかったか」

 聖騎士隊長が、周囲の捜索にあたっていた隊員に声をかける。


「黒髪様のものかわかりませんが、馬車の下からこんなものが」

「これは女性ものの服。それに下着まで。おい、ウド。これはなんだ?」

 それは、クラークがリリーを襲って剥ぎ取ったものだった。


「えーそれは……」

 ウドは言葉に詰まってしまった。


「まさか、黒髪様のものではないだろうな?!」

「違います。違います。

 それは、一緒に護送を担当していた、女冒険者のもので……。

 そう。休憩中に、同じパーティの男とおっぱじめやがったんです。

 休憩するために、街道から外れたことは説明しましたよね。

 それも、その男が、女とやるために指示したんです」


「ほー。そうか――」

 ウドは嘘を捲し立てるが、そのどれもが信じられるようなものではなかった。


 周辺の捜査が終わったが、新たな発見はなかった。

 プランタニエが、生きているか、死んでいるか、判断材料はなかった。


 聖騎士隊はその後、三日をかけて、周囲の村まで捜査範囲を広げて探したが、黒髪様の情報は得られなかった。


「これは、一度戻って聖女様の指示を仰ぐしかないな」

「あの、報奨金は……」


「その件も含め、お前には一緒に王都に行ってもらう。聖女様から御裁可がくだされるだろうから、心しておけ!」

「は、はぃ」


 ウドは、未だに報奨金がもらえるものだと思っていた。


 翌日、聖騎士隊とウドは王都に向かった。


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