第27話 中央広場

 クーラーなどの詳細が決まり、昼過ぎになりようやくモーリスさんに解放された私たちは、これからどうしようかと話しながら、街の中心方向に向け歩いていきます。


「さて、思ったより時間が経ってしまったが、これからどうしようか?」

「ん-。取り敢えずお昼を食べちゃわない? ミーヤさんが用意してくれたお弁当をどこかで食べましょうよ!」


「そうすると、中央広場辺りでいいかな?」

「そうね。そこなら、屋台で何か買い足してもいいわ」


「そんなに食べるのかい?」

「ミーヤさんには悪いけど、屋台の料理もおいしそうなんだもの!」


 私たちは中央広場に向かいます。

 中央広場には食べ物屋の屋台が沢山出ており、ベンチもあって、お昼を食べるのにはもってこいでした。


「何を食べたいんだ?」

「ミーヤさんのお弁当があるからスープ物かしら?」


「あそこの屋台でいいか」

「いいわよ!」


 そこにあったのは麺なし豚骨ラーメンのようなものを売っている屋台でした。

 白いスープにネギや焼豚などの具材が入っています。

 麺が入っていないのが不思議な感じです。


 もっとも、この国でラーメンを見たことないのですけどね。

 夢の中でも、学食で何度か食べただけでしたが、忘れられない美味しさですね。


 屋台でスープを受け取り、ベンチに座ってお弁当を食べます。

 お弁当といっても、ご飯はないので、パンに切れ目を入れて、具材を挟んだ物です。


「この国の機械ってみんな魔法を使っているんだな」

「どうしたんです、急に?」


「いや、ほら、日本には魔法がなかったから、機械も魔法を使ったものはなかったからな」

「そういえばそうですね。この国では魔道具が当たり前だから気づきませんでした。確か、夢の中でも、電気とか使ったものばかりでしたね」


「こっちには電気はないのか?」

「雷は電気ですよね。静電気も起きますし。雷魔法もありますよ」


「電気自体がないわけじゃないのか。ただ、利用されていないだけなんだな……」

「それがどうかしたんですか?」


「何か便利なものを発明できれば、また、モーリスさんに売れるかと思ってね」

「あー。確かにそうですね。クーラーとか買い取ってもらえるとは思ってなかったからびっくりしました!」


「同じようにバンバン発明できれば、直ぐ大金持ちになれるんだけどな」

「もう、十分大金持ちですけど」


「借金奴隷から解放されたいんだろ?」

「確かにそう言いましたが、今回のことは、何か、実力に則していないような気がして心苦しいです……」


「そんなことはないと思うよ?」

「そうですか?」


「食べ終わった後はどうしようか?薬草を取りに行くには中途半端かな?」

「そうですね。今日は休みにして、黒曜亭に戻りましょう。クーラーのこととかミーヤに話しておきたいですし」

「そうだな」


 私たちは昼食を食べ終わると、屋台にスープの容器を返してから、黒曜亭に戻ることにしました。

 中央広場を出ようとしたところで、馬車と馬の隊列が目の前を通り過ぎます。


 これは、教会の聖騎士隊でしょうか?

 ああ、そうですね。馬車に教会の印があります。


 私が注意して馬車を確認すると、馬車に見知った男が乗っているのに気付きました。


「あれは、ウド? どうして?!」


 それは、私を王都の奴隷商まで護送していた、Bランクパーティ、ブラッククロウのウドでした。

 どうして生きているのでしょう? 横転した馬車の下敷きになって死んだはずです。

 でも、よく考えると、ウドの死亡は確認していませんでした。

 隙間に入り込んで、助かっていたのですね。


「ミハル! どうかしたのかい?」

「まずいことになったわ! マーサルと最初にあったところに、私を護送していた冒険者の生き残りがいたようなの!」


「それは本当かい?」

「さっき通りすぎた馬車に乗っていたわ!」


「さっきの隊列か……。あれは?」

「教会の聖騎士隊よ。状況から見て、ウドが――生き残った冒険者のことよ。ウドが、教会に私のことを喋ったと考えるべきね」


「僕と一緒にいるところを見られているかな?」

「わからないわ……。見られているとしたらやばいわ。髪の色を変えてることも、偽名も、王都を目指すことも知られていることになるわ」


「そうなると、偽名を変えて、宿も移らなければならないな。状況次第で、王都を離れることも考えなければならないか……」

 マーサルにそう言われて、私は考え込んでしまいました。


 今逃げても、その先でどうなるかはわかりません。逃げた先でも見つかって、また、逃げることになるかもしれません。

 逃亡生活なんてそんなものかも知れませんが、今の生活には満足しています。逃げた先では、今と同じ生活は望めないでしょう。


「私、ここを離れたくないわ。『ミハル』の名前にも『黒曜亭』にも慣れてきたところだし、今、手放すのは寂しいわ!」

「だが、それだと捕まる心配があるぞ!!」


「教会がどうして私を探しているかわからないけど、もし、借金奴隷にされることがあったら、その時はマーサルが私を買ってよ――」

「ミハルを買えというのか? だけど、お金が足りないだろう」


「マーサルなら、きっと直ぐ稼げるわよ。既に白金貨七枚も稼いでいるじゃない」

「そうだな。いざとなったらそうするよ。ミハルはやっぱり『ミハル』でないとな!」

「それじゃあ、今まで通りの生活を続けるということで、黒曜亭に帰るわよ」


 黒曜亭に向かいながら、ふと、どうしてあの時、「知覚強化」を使用していたのに、ウドの気配を感じなかったのか疑問が湧きましたが、今更どうでもいいかと、深く考えることはしませんでした。


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