第11話 魔法

 村の宿に一泊した私たちは、朝から王都アマルティアを目指して出発します。


 王都までは徒歩だとあと二日です。

 途中の村か街でもう一泊する必要があります。


 昨日はマーサルと同室でしたが、疲れていたので、食事の後、すぐにぐっすり寝てしまいました。

 今日も一日歩くことになるので、今夜もぐっすりでしょう。


 私はマーサルと会話をしながら、王都に向け街道を歩いています。


「昨日の話で、紹介もなしに雇ってくれるところはないってことだったけど、どうにかしてお金を稼がないわけにはいかないよな……」

「そうね。マーサルは日本では働いていなかったの?」

「まだ学生だったからな」


「確か、お金持ちだったのよね?」

「そうだな。所謂、財閥というやつだな」

「羨ましいかぎりだわ……」


「紹介してもらえる伝手がない人はどうやって稼いでいるんだい?」

「一番手っ取り早いのは冒険者ね」


「冒険者か。僕でもできるかな?」

「そうね。マーサルはこの国の常識もないし、一人では難しいかもね」

「そうか……」


「でも大丈夫、二人でパーティを組めばきっとうまくいくわ!」

「二人で?」

「二人でよ」

 私は、自分とマーサルを交互に指さします。


「僕とミハルでかい?」

「そうよ」


「ミハルが冒険者になるのかい。大丈夫なのか?」

「馬鹿にしないでよ!

 これでも、ギルドに勤めていたんだから、冒険者については知り尽くしているわ。

 ギルドの受付嬢だった時に得た情報や知識も生かせるし、マーサルよりは余程役に立つわよ。

 それに、伝手もなく、手っ取り早くお金を稼ごうと思ったら、冒険者が一番お手軽なのよ」


「まあ、そういうことならよろしく頼むよ」

「こちらこそ、改めてよろしくね」


 私たちは冒険者になることが決定しました。


「そうとなれば、早速魔法の訓練を始めるわよ。魔法は冒険者になるなら役に立つからね」

「足を引っ張らないよう、しっかり身につけるよ」


 私は、歩きながら、マーサルに魔法を教えることにしました。

「では先ず、手を貸してみて」

「手?」

 私はマーサルの手をとって、彼の中の魔力を動かす。


「今、マーサルの体の中の魔力を動かしているのだけどわかる?」

「ああ、なんとなく温かいものが動いている感じがある」


「そう。魔力を感じ取れるようなら、次は、それを自分で動かせるようになることね」

「自分で動かせるように……」

「じゃあ、あとは一人で頑張ってね」


 そう言って私は掴んでいたマーサルの手を放しました。


「あ……」

 マーサルは私の手の方を見て名残りおしそうに声を漏らします。

 あら、もっと手を繋いでいたかったのかしら。

 子供じゃないんだから、そんなことないわよね。


「できるようになったら知らせてね。次を教えてあげるから」


 その後マーサルは真剣に魔力を動かす訓練をしていました。

 そしてお昼には指先に魔力を集められるようになったのです。


「なかなか筋がいいわね。こんなに早く魔力を動かせるようになるなんて驚きだわ!」

「そうかな? へへへ」

 マーサルは嬉しそうに笑いました。


「それで、この後はどうすればいい?」

「そうね。指先に集めた魔力を炎に変えて放出してみて」


「炎に変えて?」

「魔力はね。魔力操作によって、動かすだけでなく、何にでも変換できるの。

 魔力を素に炎を作り出すイメージを強く持つことが大事ね」


「魔力を炎に変換ね? 炎に変換。炎になれ。炎」

 マーサルは指先に魔力を集めたままあれこれ試しています。

 まあ、普通そう簡単にはできないわよね。


「こうやるのよ」

 私はマーサルの手をとり、指先に集められた魔力を炎に変換してあげます。

 普通は、他の人の魔力を操作することなどできないのですが、魔力操作SSSの私にかかれば簡単なものです。


「ファイヤ!」

 マーサルの指先から焚き火サイズの炎が吹き出します。彼の魔力量はかなり多いようです。

「うおー! 凄い。熱ちちちち」

 マーサルは指を火傷しそうになって慌てて炎を消します。


「イメージが掴めたかしら?」

「うん、どうだろう。ファイヤ! おお。できた。熱つ」


 上手くできるようになったようです。魔力操作の才能もあるようですね。


「おめでとう。こんなに早く魔法が使えるようになるなんて素晴らしいわ。

 それに、魔力量も多いみたいだし。羨ましいわ」

「魔力量?」


「体内に蓄えて置ける魔力の量よ。普通の人で百位なのだけど、私は一桁しかないの。そのせいで殆どの魔法が使えないわ。

 使えるのは魔力量が少なくて済む風魔法ぐらい。炎を生み出すファイヤなんて使えないわ」

「そうなのか? 風魔法って、空気を操る魔法だろ?」

「そうよ。私の魔力量で操れるのは空気のような軽い物だけ」


「空気を扱えるなら炎を生み出せるだろう」

「そんなことできないわよ」


「空気を圧縮していけば高温になり、炎のようになるはずだ」

「本当なの?」

 私は疑いの目をマーサルに向けます。


「そう言われると自信をなくすけど、試しにやってみてもらえないか」

「そこまで言うならやってみるけど……」


 私はマーサルの顔を立てて、試してみることにしました。

 できなかったとしても損はないですし、もし仮にできれば、大発見です!


「それじゃあ、空気を集めて圧縮していくわね」

 私は手元の空気を集めて圧縮していきます。


 最初は上手くいかなかったのですが、コツを覚えて、上手く圧縮できるようになると、次第に集めた空気が熱くなっていきます。

 やがて、炎のように輝きだしました。

 手元とでは熱くなって、私は手を掲げ、その先に直径三十センチの、高温の空気で出来た輝く球体を作り出します。

「できたわ!! 「ファイヤボール」とは少し違うみたいだけど? 「ファイヤボール」みたいなものが!」


 私は街道の脇にあった大きな岩に目を付けます。

「くらえ! 「なんちゃってファイヤボール」いけー!!」


 ジュ! ッパン!!


 私の放った「なんちゃってファイヤボール」で大岩が半分溶けてはじけ飛びます。


「やったわ! できたわ! できた!! 私にも「ファイヤボール」が、擬きだけど、使えたわ!!」

 私は大喜びで、はしゃぎ回り、マーサルにも抱き付いてしまいます。


 マーサルはその威力に目を丸くしていましたが、私に抱き付かれて正気を取り戻しました。


「おう。おめでとう」

 抱きつかれたマーサルは、照れながらもお祝いを言ってくれました。


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