第10話 村に到着
村に辿り着くと予想外のことに、入口に警備の村人が立っていました。
「何かあったのですか?」
私は慎重に村人に質問します。
「ああ、なんでも黒髪の身元不明人がいたら報告するように言われたんだ」
私は思わず息を呑みます。
どういうことでしょう? 手配が回るとしても早すぎます!
「その人、何かしたのですか?」
「よくわからんが、教会からの命令だから神に背くことでもしたんじゃないか?」
「教会からの命令なのですか……」
教会に追われるようなことをした覚えはないのですが?
「お前ら黒髪ではないから関係ないけど、一応身分証を見せてくれ」
「あ、はい。これです」
「冒険者カードか。よし、通っていいぞ!」
偽造した冒険者カードを見せると、警備の村人は何も疑いもせずにそのまま私たちを通してくれました。
「身分証を用意しておいて良かったな」
マーサルは私の頭の上に手をのせます。
「そうね。助かったわ」
私はその手を払い除けます。
マーサルは苦笑いを浮かべていました。
村は小さな集落でしたが、王都への街道沿いということもあり、ちゃんと宿屋はありました。
私たちは宿屋に入り、部屋をとります。
「すみませんー。二人なんですけどー」
「はーい。宿泊ですか? 食事別で一泊銀貨八枚、先払いになります」
「銀貨八枚ですね。それじゃあこれで」
私は宿のお姉さんに大銀貨一枚をわたします。
「大銀貨一枚ね。それじゃあ、お釣りの銀貨二枚とこれが鍵ね。二階の奥の二十三号室だから。
それと、この村で食事を取れるのは、ここの食堂と向の酒場が一軒あるだけだから」
私は、お姉さんからお釣りと鍵を受け取ってから、マーサルに尋ねます。
「食事はどうする?」
「ここの食堂でいいんじゃないか。実はかなりお腹が空いているんだ」
「それなら、もう部屋に上がらず食べようか?」
「そうしよう!」
「毎度あり。席は好きなところを使っていいから。メニューを見て、決まったら声をかけてね」
お姉さんが奥に引っ込んで行き、私たちは隅のテーブルで席に着きます。
「こちらの国に飛ばされてから三日経つけど、その間ろくな物を食べていなかったんだ」
マーサルはメニューを見ながら話しかけてきます。
「え、森に中を武器も持たずに三日も彷徨っていたの? よく無事だったわね」
私もメニューを見ながらそれに応じます。
「魔獣なんてものがいるとは知らなかったからね。運が良かったよ」
「なにも持たずに森の中で夜を過ごすなんて、運だけでどうにかなるレベルの話じゃないんだけど……」
「二日目の夜は樹洞を見つけて、そこで寝たんだ。今が冬でなくて良かったよ」
今は春、そろそろ初夏といえる季節です。
「二日目? 最初の日はどうしたの?」
「何か石でできた祠のような所があったからそこで寝たんだ」
「森の中に祠ね? 聞いたことないけど?」
「手入れがされている様子はなかったから、忘れられてるんじゃないかな?」
「ふーん。そうなんだ……」
まさか、未確認のダンジョンということは、ないでしょうね。
「僕はスタミナ満腹セットがいいかな」
「私は本日のお勧めにするわ。すみません。注文いいですか!」
奥から先程のお姉さんが出てきて注文を取っていきます。
スタミナ満腹セットに「精力付きますよー」とマーサルが揶揄われていました。
「いや、ミハルにそういうつもりはないからね」
「当然でしょ。お姉さんだって、私が相手だとは思ってないわよ」
二十歳は過ぎていますが、私の見た目は十代前半です。これに欲情するようなら、そいつはロリコンです!
「今更だけど部屋は一部屋でよかったのかい?」
「兄妹という設定だもの、別々の部屋というのも変でしょ。
それにお金を無駄にできないわ」
「そうだな。王都に行けばお金を稼げる当てはあるのかい?」
「紹介もなしに雇ってくれるところは先ずないわ」
「ミハルは、冒険者ギルドというところで働いていたんだよね?」
「そうよ。そこで受付嬢をしていたわ」
「その冒険者ギルドとはどんな組織なんだい? 僕の国には無かったんだ」
マーサルがいたのが、私が夢で見た国と同じならば、わからないことばかりだと思います。
突然今までと全く違う国に飛ばされたなら、戸惑うことも多いでしょう。
「冒険者ギルドは冒険者の仕事を手助けするための組織ね。
冒険者が狩ったり採取してきたりした素材を買い取って、まとめて商業ギルドなどに卸したり、個人や組織からの護衛や討伐などの依頼を仲介したりするわ。
冒険者への教育やお金の預かり、貸し付け、冒険者が収めなければならない税金の天引きなんかも行っているわ」
「へー。ところでその冒険者っていうのはなんなの? 僕の国では未開に地を探検してお宝を探す者のイメージなんだけど。
話を聞く限りだと、狩人と傭兵が合わさった感じなのかな?」
「そんな感じでいいと思うわ。勿論この国でもダンジョンに潜って、お宝を探す冒険者もいるわ」
「ダンジョン?」
「洞窟とか、迷宮とか、遺跡とかに魔物が棲みついているところよ。お宝が隠されている場合があるわ」
「魔物って、魔獣とかだよね?僕の国には獣はいたけど魔獣と呼ばれるものはいなかったんだけど」
「魔獣は獣が魔力の影響を受けて変化したものだといわれているわ。
マーサルの国は魔法も使われていなかったのよね。魔力がない地域なのかもしれないわね」
「魔力って地域によってあったり、なかったりするものなのか?」
「全くゼロの地域があるかわからないけど、地域によって濃淡はあるわね」
「ふーん。なら、魔力があるこの国なら僕も魔法が使えるのかな?」
「試してみれば」
「やり方がわからないよ」
「なら、明日歩きながら教えてあげるわ」
「歩きながら教わるものなの?」
「食べながらよりは、いいんじゃない?」
ちょうどお姉さんが注文した料理を持ってきました。
「本日のお勧めと、今夜も元気いっぱい、朝までビンビン、スタミナ満腹セットお待ちー」
「そのネタは、もういいから!」
「あはははー」
お姉さんは、料理を置くと笑いながら戻っていきました。
「すごい量ね。三日もろくに食べてなかったのに、いきなりそんなに食べて大丈夫?」
「逆に、三日分のエネルギーを取らなくちゃね」
マーサルにとっては異国の料理ですが、口に合わないということもなく、美味しそうに満腹セットをたいらげていました。
もっとも、お腹が空いていれば何でも美味しいのかもしれませんが。
私の本日のお勧めは、シチューに、パンに、ポテトサラダでした。普通に美味しかったです。
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