鳥の詩(うた)

嘩燐

第1話 はじまり

「はぁ…はぁ…っ!」


夜、辺りは暗く何も見えない深い森の中を、必死に走る少女がいた。

見た目は16か17の若い少女。

彼女は、時々後ろを振り返りながら何かから逃げるかのように走っていた。



いつもは慣れているはずの道なのに、どうしても走る事が出来ない…っ!

早く、あの子の元へ帰らないといけないのにっ…!



ガサガサガサッ!



「…っ!!」



後ろから足音が聞こえてきて、慌てて近くの草むらに身を隠した。

そして息を潜めていると、数人の男達が彼女が隠れた草むらの前で立ち止まった。



「くそっ…どこへ行ったんだ!?」

「女の足だ…そう遠くまで行けないだろう。」

「早くしないと、殿に申し訳がたたんぞ!?」

「ここからは、別々に探そう!」



そこで話していた男達は、別々に別れて探し出す事にしたのか、足音がバラバラに別れていった。

彼等の足音がしなくなったのを確認し、彼女は隠れていた草むらから出た。



と、その時。



「いたぞっ!!」

「…っ!!」


少女の後ろから声が聞こえ慌てて振り向くと、そこには別の男が立っていた。

その姿を見た少女は慌てて走り出すと、後ろにいた男が追いかけてきた。



「待てっ!!」



先程の声でなのか、別のところを探していた男達も集まってきた。



「止まれっ!止まらないと撃つぞ!!」



一人の男がそう叫んだ。

少女が後ろを見ると、どうやら弓らしきものを持っているようで、こちらに向けているのが見えた。



しかし、彼女は止まる気配を見せなかった。

必死に、自分の目的の場所へ走る。



「止まれっ!!」



そう、男が叫ぶのと同時に音が聞こえた。



ビュッ!!



後ろから聞きなれない音が聞こえ、少女が振り返った瞬間。



ドスッ!!



何かが刺さった様な音。

その時、少女の目は見開き身体が小さく揺れた。

胸に痛みがある…。

彼女はゆっくりと、自分の胸を見た。

そこには、普通無いはずの矢が刺さっていた。



先程、男が放ったのは矢だった。

そして、その矢が少女の胸に刺さったのだ。



ジワジワと赤い液体が、矢が刺さった部分から溢れてくる。

そして、ゆっくり自分が倒れていくのが分かる…。

意識が朦朧としてくる頭で、ある人物を思い出していた。






…ごめんね…。

もう…一緒に暮らせないわ…。

これから…貴女に不安な日々が訪れてしまう…。

それを…止めれなかった…母さんを…許して…。

どう…か…貴女に…幸せな…日々を…。





草の上に倒れ、視界が滲む。

遠くから、追いかけてきていた男達が近寄ってくる。

ゆっくり目を閉じながら、彼女はある人物の名前をつぶやいた。



「…。」



誰にも聞こえないほどの小さな声で…。




彼女は、そのまま息をひきとった。






『鳥の詩(うた)』






昔々、ある国に翼の生えた少女がいた。



生まれた時は、普通の人と同じで赤子だった。

しかし、17歳を迎えると成長は止まり少女のまま成人を迎える。

そして、唯一人と違ったのはそれだけではない。

背中から純白の翼が生える事だった。

その姿を、誰も忌み嫌う者はいなかった。

逆に純白の翼を持つ少女を、周りの人たちは『神』として崇めていた。


少女を『神』と崇める理由…それは、不思議な力を3つ持っていたからである。


1つ目。

人とは別に、この世に生まれた生物全てと会話が出来る事。

2つ目。

完全治癒能力。

そして、3つ目…。

国に富と安らぎを与えられる事。



3つ目の力は、少女自身で決まるのだ。

少女がこの国の為に尽くしたいと思うと、その力は発動する。

丁度、少女が暮らしていた国は平和で豊かだったのだ。



しかし、その平和な日々は続かなかった。

少女の話を知った身勝手な他国の権力者達が、少女を我が物にしようと戦を起こし始めた。



争い事が嫌いな少女は、泣きながら何処かへ身を隠してしまった。

大好きな人々が争うのは自分のせいだ…と、心に傷を負ったまま…。

その瞬間、平和で豊かだった国は一気に滅びてしまったのだ。

権力者達は次は自分の国が滅びるのではないかと焦り、必死になって少女の居場所を探したが見つける事は出来なかった。



それから、何百年も経ち…。

翼を持つ少女『翼人』の話は、昔話になって伝わっていった。



事実を知る人間は、もういない。

ただ、少女は物語の人物としてでしか生きてはいない。

『翼人』は存在しない、架空のモノだと思われていた…いや、思っていた。



しかし、ある日を境に運命の歯車は回り始めた。

存在しないだろうと思われた『翼人』の出現によって…。

そして、1つの国の運命も変えようとしていた…。


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