64 ともに生きともに死ぬ④

「私はせめて義一さんに幸せになって欲しいんです。あなたが瘴気に苦しまず生きていけるならと、私は……」


 心臓がわし掴まれる思いがして義一は唇に歯を突き立て、あふれる愛しさと少しの切なさのままに凰和の額に自分のそれをすり寄せた。


「俺は、生き長らえるために生きたいと思ったことはない。なにかあれば抗わずそのまま死ぬつもりだった。でも凰和がこんな俺でも必要としてくれるなら不様にも生きていたい。一分一秒でも長くしがみついてお前のそばにいたい。それがどんなに醜く、欲深いことでも」


 義一は友仁から託されたおもちゃの指輪を目の高さに掲げ、にっと笑った。


「なあ? こんないい旦那と少しもイチャイチャしないで死にきれるつもりか」


 そっと掬い上げた凰和の左手はか細く震えていたが逃げ出す素振りはなかった。そのことに人知れず安堵した義一の手もまた震えていて、薬指に輪をかけるだけのこともなかなかうまくいかない。

 やっと通せたと思ったら節でつまずいた。どうあがいても越せそうにない指輪の小ささに、そういえばこれは子ども用だったと思い当たり義一と凰和はふたりそろって照れ笑いをこぼした。


「義一後ろおおお!」


 突然、切羽詰まった友仁の叫び声が響いた瞬間、義一はドンッと衝撃を感じて自分の胸を見下ろした。腹から黒い鋭利な、まるで節足せつそく動物の手足のようなものが一本突き出ていた。そして内臓からねっとりとまとわりつく瘴気が注ぎ込まれる感覚に吐き気が競り上がってくる。

 義一はとっさに、自分を貫くものは禍ッ日之神の足だと悟った。後ろから襲われたのは地面を潜ってきたからか。ぐっと後ろに引きずられる。ダメだ。抗う術がない。瘴気が体中に絡みついて足を踏ん張ることさえ叶わない。


「義一さん!」

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