56 潜入!ジョージ電力会社⑥
「センパイ……義一センパイ……」
鼻先に溜まった涙を拭うこともせず翔はすがるような目で見上げてきた。
「社長が、行ってしまいました……霊獣ノ巫女といっしょに……。これが僕のけじめだから、さいごまで見届ける義務があるって……ああ、
泣き崩れる翔から義一はホームの先へと目を向けた。そこには古びた石でできた鳥居がある。こちら側と神の領域を隔てる門だ。そのかたわらの壁に取りつけられた照明はいつも点滅していた。瞬く光の中でせつな鳥居の向こう側につづくでこぼこした土壁が浮かび上がる。自殺志願者たちは列車の中でどれだけぐったりしていても、鳥居の前へ来ると誰かに呼ばれたかのようにふらりと歩き出した。そしてしばらくすると肌にまとわりつく瘴気が軽くなる。それがひと仕事終えた合図だった。
悪い、と声をかけながら義一は友仁をそっと下ろした。項垂れる翔の首根っこを掴んで長イスに引きずっていく。目を離せば倒れ込む体をイスに寄りかからせ、手すりを掴ませて義一は翔の目をしかと見つめた。
「いいか。お前は地上に戻って副社長を呼ぶんだ。そのことだけを考えろ」
翔はまだぶつぶつと譲慈の名前をつぶやいていたが、地上に戻れば瘴気の影響はなくなり正気を取り戻すはずだ。義一は後部にもある運転席へ向かい、緑のボタンを押してすぐにホームへ出た。背後でドアが閉まる。窓を見たが床にうずくまる翔の姿は見えず、列車は薄闇を照らしながら線路を上っていった。
友仁を背負い直して、義一は鳥居の前に立つ。風が土壁の空洞に吸い込まれていた。行くぞ、と声をかけると首に回った友仁の手がかすかに力を込めた。
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