26 祈りの舞④

 空を飛ぶというよりは海を泳ぐように尾羽を棚引かせて、霊獣・凰和は神社の上を旋回し町へと下りていく。子どもたちもあとにつづいて駆け出した。

 凰和も一歩、二歩と進み出る。目を閉じて胸元で手を絡ませる少女はその先に雨を遮るものがないことに気づいていない。義一が呼び止めようとした時、凰和の姿に光が重なり長い衣がひらり風に揺れたように見えた。

 義一が自分の目を疑っている間に凰和は大門を潜り抜けて濡れた地面の上に立つ。しかしそれと同時に天上からひと筋の陽光が差してきて義一は目を剥いた。

 早送りのように灰色の雲が流れて空が茜色に割れていく。町を舞う瑞鳥は夕陽を透かして赤紫色に体を変化させた。鳥は光そのものだった。再び響いた美しい鳴き声に呼応して町中のちょうちんに明かりが灯り、瞬く。その様を階段上から見ていた子どもたちは思い思いに喜びを叫んだ。


「これが私の感謝の気持ち」


 凰和の黒髪が舞う。白いTシャツの裾がはためく。

 瑞鳥は光の破片が瞬く中、頭を持ち上げてくうを叩き茜に割れた空へ飛翔した。そのくちばしが雲を掻き分けた瞬間、鳥の体は光に溶けて突風となり雨雲をすみずみまで消し去った。あとには雨粒の残滓がきらめく町を背に振り返った凰和は、ぽかんと口を開けたまま立ち竦む大人たちににっこり笑いかけた。


「さあ、お祭りをはじめましょう!」


 なんだか義一はしてやられた心地になりながら屋台の間を練り歩いていた。片手で義一の腕を抱き込み、もう片手でチョコバナナを頬張ることに忙しい凰和は最初から祭りを中止させる気などさらさらなかったのだ。みんなの前ではせめてあいさつをして感謝を伝えたいなどと殊勝なことを言っておいて、結局自分が屋台巡りをしたいだけではないか。

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