25 祈りの舞③
だがさすがに部屋着に草履はやめておけばよかったと苦い顔をする義一のところへ、凰和が駆け寄ってきてトンッと胸に触れた。
「義一さん、少し霊力を返してもらいますね」
へ? とまぬけに口を開けた時、義一の心臓に熱い血の塊のようなものが集まってくる感覚がした。その熱は凰和が手を離すと、追いかけるように外へ向かっていく。義一の心臓と凰和の指先の間でせつな火の粉が舞い上がった。
子どもたちからひかえめな歓声がもれる。大人たちは気づかない。凰和は横目で子どもたちに笑いかけ、手を大きく後ろへ振った。その瞬間、一気に手前のちょうちんから奥へと火が灯っていく。そして凰和が後ろから前へ腕を振り上げると、今度は奥の社から大門までのちょうちんに煌々と赤い明かりが宿った。
「うん。使い方、だんだんわかってきた」
口ずさむように言って凰和はその場でくるりと回る。すると青い光が――いや光の羽だ。羽が飛び散って石板に舞い下りると、そこから波紋がいくつも重なって現れほのかな光を放った。
子どもたちが上や下を見てきゃっきゃっとはしゃぐ。凰和がひとつ仕草をする度に生まれる羽を追いかけて手を伸ばし、跳ね回る足元では波紋が立っては消えるをくり返す。呆然とする義一の横で友仁も楽しそうな声を上げ、波紋と追いかけっこをはじめた。
「ねえ、見てて!」
ぱんっ、と音を立てて手を合わせ子どもたちの注意を引いた凰和は、手を前に向けて大きく解き放った。その瞬間、突風が駆け抜け誰もが顔をかばったその腕越しに青い光を感じた。光は風となって大門から空へ飛び出す。義一が慌ててその姿を追って顔を上げた時、美しい弦の音色のような鳴き声が降り注いだ。
瘴気の雨も輝く光に変える青い翼を広げ、風に優雅な尾羽を遊ばせる光の鳥はまさしく、百獣の長と呼ぶに相応しい荘厳な美しさを放つ。
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