22 お子サマの意趣返し④
だが同時にかわいげも湧いてくる。ここはひとつ千円札でも出して喜ばせてやろうと思い、義一はズボンのポケットをまさぐった。しかし財布がない。いやいや、これは借り物の服だったと思い直して義一は凰和に尋ねた。
「俺が着てた服は?」
「洗濯しましたよ」
まさか財布もいっしょに洗ったのかと慌てる義一に凰和は首を横に振る。
「かくしから小銭が出てきたので全部調べましたが、財布はありませんでしたよ」
そう言いながら凰和はエプロンの前ポケットからティッシュの包みを取り出した。テーブルに広げられたその中には十円玉が三枚と一円玉が四枚入っていた。これがどういう意味を示すのかしばし理解できず、小銭を凝視する義一に友仁がいやらしい笑みを向けた。
「で。俺に頼むことあるんじゃないの」
「い、いや俺は別に祭りの屋台なんて興味ねえから」
「義一さん行かないんですか……?」
見ると凰和は食べかけのおにぎりを皿に置いてうつむいた。『私はただの穀潰しです』『なにかを望むことすらおこがましい身です』にわかに夢で聞いた凰和の声が頭の中で響く。ここでうなずいたら少女はもう食べることすら拒否するのではないか。焦燥が義一の胸を締めつけた。
「お小遣いください、友仁さん」
義一は食卓に額をつけて頼み込んだ。しょうがないなあ、ともったいつける友仁の声とともに凰和の弾んだ声が「よかった」とうれしがる。目を上げると凰和はさっそく友仁から受け取った小さな封筒を両手で握り締めて、はじめて自分だけの物を与えられた幼子のように目を輝かせ静かにはしゃいでいた。
無駄遣いしちゃダメだぞ、と余計なひとことを添えて友仁が寄越した封筒を受け取りながら、義一は唐突に凰和の手はまだ冷たいのだろうかと気になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます