幻想紀行クエスト

水無月薫

プロローグ

 ゴールデンウィーク明け、同じ部署に配属になった同期の高杉くんから、京都旅行土産のお守りをもらった。お守りには亀のような生き物が描かれていた。「玄武」という神獣だそうだ。お土産にお守りというのも珍しいなと思いつつ、ありがたくいただき財布にしまっておく。亀は好きだ。久しぶりに、いっとき飼っていた亀のことを思い出した。

 俺は昔から動物が好きだが、母親の抵抗が強くて、ずっとペットを飼うことができないでいた。ペットを飼っている友達が羨ましくて、友人の家に遊びに行って犬や猫がいるとテンションが上がった。道端にいる猫に餌をあげたりもした。

 そんな我が家に短い期間ながら亀がいたのは、大学三年生の冬だった。玄関を出たら、道端で小さな丸い物体がノソノソ動いている。あたりに人はいない。住宅地に野生の亀なんているんだろうか。もしかしたらどこかの家がうっかり逃してしまったのかも知れないが、道端にこのまま放置していたら、轢かれたり踏まれたりしてしまうんじゃないか。少し考え、これだったら母も大丈夫だろうと家に持って帰った。

「最初に飼うペットが亀になるとは全く思ってなかったなあ」

 犬や猫と違って、じゃれたりできないのは寂しいが、見ているとだんだん可愛く思えてきた。手のひらに乗せて観察してみる。甲羅の模様が美しかった。爬虫類は苦手だと思っていたが、亀は平気だった。手のひらで包み込めるくらいのサイズなので、子亀なのか、それとも大きくならないタイプなのか。少しずづ時間をかけて調べていこうと思ったら、拾って十日間くらいで、その亀は動かなくなってしまった。もともと弱っていたのかも知れない。とにかくとても悲しかった。花を添えて、庭に丁重に葬った。せめて名前くらいつけてあげたかった。

 できればもう一度何かペットを飼いたい。

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