ショートストーリー

五十嵐夏星

1. 落下するふたつの星

好き、嫌い、どうでもいい。世の中の人間は三種類に分かれる。俺の中では、好きが一パーセント、嫌いが三パーセント、どうでもいいが九十六パーセントだ。


「りゅう」


俺の部屋のドアを開けて、四歳下の妹が俺の名前を呼ぶ。妹はこの世界で唯一、俺が好きだと思える存在だ。正直、両親はどうでもいいの部類に入っている。お互いに愛し合って幸せなら、まあ、いいんじゃない?くらいの気持ちだ。


「どうしたの」

「シャーペンの芯切れちゃった。ちょうだい」

「いいよ」


妹の花菜は今大学で心理学を学んでいる。俺と違って物事に興味を抱ける性格みたいで安心している。…血は繋がっていないけれど。俺と花菜は両親の再婚で兄妹になった。それが十四年前の今日。


「お父さんとお母さん、おいしいもの食べてるかな」

「結婚記念日だし贅沢してんでしょ」

「あー、一緒に行けばよかった」

「花菜はあの空気感に耐えられるの?」

「龍都と四人なら」


両親は未だに新婚のような甘い雰囲気で毎日を過ごしている。羨ましいとは思わないけれど、これだけお互いに愛を持ち続けられるのは純粋にすごいと思う。


「あれだけ仲が良いのに、俺たちに兄弟が増えなかったの不思議だと思わない?」

「思わないこともないよね」


そう言いながらベッドに寝転んでいた俺の隣に来ようとする花菜は目がとろんとしていて、シャーペンの芯は確実に口実だった。俺たちは兄妹だけれど血は繋がっていない。

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