拾った幼女と罪なごはん
※※※百合ですご注意ください※※※
ああ、神様! どうしよう。
常日頃、幼女をお風呂に入れてみたいなぁ……なんて妄想を重ねていた私が、まさに今、とびきり可愛い幼女の髪を洗っています。
「ふんふんふ〜ん ふんふふーん」
その彼女は無防備に頭を預けたまま鼻歌を歌っていて、まるで天使のようです。知らない曲だけれど、きっと音は外れていて、そこもたいそう可愛らしいです。
「この、しゃんぷーとやらは、いったい何回するものなんだ?」
じっとしていることに飽きたのか、彼女が鼻歌を中断して尋ねます。普通だったらシャンプーとトリートメントと1回ずつで済むはずだけれど、この子はいったい何年お風呂に入っていなかったのか、全く泡が立ちませんでした。三度目のシャンプーでようやく、もこもこの泡で包んであげることができたんです。
「はい、シャンプー終わり」
頭の泡を丁寧に洗い流します。
「やっとか。うんうん。花の香りがしていい気分だ」
ご機嫌で振り向く彼女の笑顔……眩しすぎます。はぁ、好き。
「じゃあ、次はトリートメントでーす」
「んん? またしゃんぷーか?」
「ちょっと違うけど、これでおしまい」
「まぁいいか。頭を撫でられるのは嫌いじゃない」
もう……おとなしくトリートメントされちゃってるよ、この子。くぅう、可愛いなぁ。1週間の疲れが癒やされちゃうよぉ。
入社2年目のOLの私は、春に入ってきた賢い新人と中間管理職に昇進した先輩のはざまで、日々すり潰されそうになっています。そういう時は、大好きな……というか性癖ど直球の二次元幼女と面白楽しい異世界スローライフを妄想をしたり、毎日私の帰りをほかほかして待っていてくれる、炊きたてライスに想いを馳せることでなんとか誤魔化しながら生きています。そうして今週も生き延びましたが、ついに今日、自宅マンションのゴミ捨て場で、理想の美少女を拾ってしまったんです。
いえ、ほんと現実の幼女はそこまでじゃないんです。普通に保護すべき愛しい生き物と認識しています。私がはぁはぁするのは二次元のありえんくらい美しく愛らしい幼女です。そこは理解してください。でもこの娘は別物です。やばいです。人形のような揃いすぎている顔だちに、腰まで伸びたシルクのような黒髪。少し目尻の上がった冷たい印象の目は、吸い込まれそうな深い緑色です。もう、吸い込まれちゃいたい。好き。
神様ありがとう、私とっても幸せです。
あ、もちろんお風呂では、ちょうど家にあった子供用スクール水着が彼女のサイズとぴったりだったので、それを着てもらって、私はキャミとショーパン姿です。安心してください。yesロリータ、noタッチです。
なぜかシャンプーの概念を持っていなかった彼女の、獣のような匂いをどうにかしたくて『一緒にお風呂』なんて大胆なことをしてしまったけれど、流石に体は自分で洗えそうだったので、私は先にバスルームから出ました。
さてさて、美味しいご飯を食べさせましょう。張り切って調理開始です。どのくらい食べる子なのか見当がつかないので、炊き立てご飯を全部混ぜ込みおむすびにしようかな。残っても明日食べれば良いし。
炊飯器からご飯を内釜ごと取り出して、ツナ缶を油を切らずに投入。塩昆布と揚げ玉、削り節にいりごまも追加して、味付けは麺つゆを大さじ2くらいかな。目分量。仕上げにマヨネーズをひと回しして、混ぜ込むべし。
ラップを手にとって、包みながら握ると、手も汚れないし、効率的に大量生産ができるんだよね。食べるときに韓国海苔でも巻こうかな。あとはウインナーを飾り切りして、ブロッコリーとトマトでも添えればそれなりに見えるよね。
ウインナーの飾り切りなんて、久しぶりだな。自分用なんて最近じゃお弁当用でもしなくなっちゃったし。といっても、タコと人間くらいしか作れないんだけどさ。それにしても、誰かのために作るって楽しいなぁ。
ご飯の支度がひと段落ついた頃、彼女の声が聞こえてきました。
「さあ、この勇者ミネア・ザナレーティアに何を食べさせてくれるのかな?」
彼女こと、自称『勇者ミネア・ザナレーティア』がお風呂から全裸で出てきてしまいました。ラッキーです。でもここはお姉さんが優しく注意してあげるシーンですよね。大丈夫です。弁えてます。
「もう、お風呂から上がったら、お着替えしてねっていったじゃない」
なぜかうちにあった子供用のサマードレスを着せて、軽くドライヤーをかけたあと、タオルキャップを被せます。
「さあ、ご飯にしよ。どうぞ、召し上がれ」
「うわー何これ! お前、なかなかセンスがいいな!」
ミネアは目をキラキラさせて歓声を上げました。
よし。
まずは見た目で掴みはオッケー。味はどうかな?気に入ってくれるかな?少し心配です。
おむすびに韓国海苔を巻いて、ミネアが頬張る。そのまま無言で、二つ目、三つ目と手が伸びた。
やばい。ニヤニヤがとまらん。何も言わなくとも、瞳がピカピカで、ほっぺたがふんわりピンクで、顔全部で美味しいって言ってくれてる。安心して私も一緒におむすびを頬張る。口いっぱいにカロリーと糖質、そして塩味を好きなだけ混ぜ込んだ、罪深い味が広がる。
ああ、美味しいって幸せ。
私とミネアは無言で罪深いおむすびを味わった。
「ふう、満足だ。にしても、これ最高にイカしてるな」
少し落ち着いたのか、ミネアはフォークに刺した『人間』ウィンナーを楽しそうに口に運んだ。
「可愛いでしょ?」
「ふふ、この焼け爛れた感じ。ふふ、あいつらみたいだ」
ん。ちょっと物騒です。
「そういえば、ミネアちゃん。勇者ってどういうことなの? やっぱ警察に……」
「行かなくて大丈夫」
「……うん。そうだよね。大丈夫」
不思議とミネアの言葉に納得してしまいました。
「私はお前を気に入ったぞ。名前は?」
「名前、魚沼まい……です」
「まい。いい名前だ。では、出会の記念に聞かせてやろう。勇者の話を」
ミネアはご機嫌で、かくかくしかじかと身の上話をしてくれました。かいつまんでまとめると、彼女は長い間勇者として異世界を統治していたけれど、魔王の手により討伐されそうになり、命からがらこちらの世界とゲートを繋いで逃げてきたみたい。彼女曰く「死ぬ気になればなんでもできる」だって。
「魔王どもは何人かでチームを組んでいてな、いつも旅の途中でうまそうなものを食べたり、カジノで遊んだり、青春したり楽しそうでな……私なんか配下はいても、全部自分一人で決めているのにな。腹が立ったから転送する前に、返り討ちにしてきたわ。ほんと、全員これ状態よ。ハハハ」
と、ウインナーで作った人間を食べました。少し、寂しそうです。
「もうお皿、空になっちゃったね。片付けるの手伝ってくれるかな?」
「なかなか楽しい食事だったぞ。片付けは得意だ」
ミネアはそういって、可愛らしくウインクすると同時にお皿が消えてしまいました。
「え?お皿どうやったの?」
「片付けた」
「どこに?」
「分解してこの世界から消した」
「は?」
理解が追いつきません。
「え……あの」
私の反応が想定外だったのか、ミネアもしどろもどろです。
「まい、怒らないでくれ、片付けるってなくすことじゃないのか?」
しょんぼり項垂れるミネアも可愛いです。私は優しく微笑んで「いいよ」と彼女の髪を撫でた。
それにしても、ミネアのいってることはあべこべです。端的に言うと、私の知っている勇者と魔王のポジションが逆です。どう考えてもミネアは魔王です。それはもう、ウインクでお皿を世界から消してしまうほど、魔力に満ち満ちている、大魔王です。警察に連れて行く気が不思議と消えてしまったのも、きっと魔力でどうにかされたせいかな。と思うと妙に納得です。
神様、この天使のような魔王を私はどうしたらいいのでしょうか?
お風呂に入って、ご飯を食べて、すっかり安心したのか、ミネアはソファーで寝息を立てています。そういえば、ミネアを討伐したらしい『魔王』のことを羨ましそうに話していたっけ……。
「ねえ、ミネア。青春する相手は私じゃだめかな?」
寝顔に語りかけると、天使の寝顔が微かに微笑みました。
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アンソロに寄稿したものの2稿くらいです。
完成したやつのデータが見当たらず…
多分続きを書くと長くなりそうなので読み切り作品です。
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