第32話 ビッチ

『アイスジャベリン』


俺は佐間に向けて氷の槍を放つが、ひらりと躱されてしまう。

やはりこんな女でもステータスは高いようで一筋縄ではいかない。


「あなたのスキルはさっき一度見たからもう通じないわよ。結構いいスキルだとは思うけど相手が悪かったわね」

「舐めるな! 『アイスジャベリン』 貫かれて死んでしまえ!」

「だから、それはもう見切ったって言ってるでしょう」


佐間は本当に『アイスジャベリン』を見切っているようで、再びあっさりと躱して再度俺に向かってナイフを投げてきた。

こいつの投げるナイフは戻って来て背後から襲って来る。

俺は上半身の動きで向かってきたナイフを躱してから、後方にも意識を集中するが、足下が沼にはまったように動かない為に後方への対応が、剣を背後に向けて立てるぐらいしか出来ない。

致命傷を避ける為、正中ラインに剣を立てナイフを防ごうと試みるが、ナイフは俺の剣を避けて腰部の横に刺さった。


「ぐっ……」


その瞬間激痛が走り、焼けた様な痛みが広がって行く。

これ以上はまずい、三本目をくらえば動きが鈍り、佐間を倒す事が難しくなってしまう。

火炎剣で飛んで来るナイフを焼き切るか?

ただ、これは佐間を倒す為の奥の手として残しておきたい。


「ふふん、そんなので私の『トリックorトリート』が防げるわけ無いじゃない。やっぱりバカは死なないと治らない様ね」

「それがお前のスキル名か。ナイフを曲げるだけのクズスキルだな。スキルなしでもそのぐらい出来そうだ」

「ふん、口の減らない奴ね。本当はもう後がないんでしょう。見え見えよ」


まだか……

まだなのか?

本格的に追い詰められて来た。


「いや、そんな貧相なナイフが何本刺さっても、致命傷にはなり得ないな。アリにたかられたようなものだ」

「現実が見えてない様ね。私はアリじゃなくて象だと思うわよ。あなたがアリで私は象。プチっと踏み潰してやるわよ」


そう言うと佐間はナイフを両手に何本も持ちこちらへと投擲してきた。

流石にこの数はまずい。

無理にでも避けようと身体を動かすと、不意に足下が軽くなった。

どうやら、これまでの無駄なお喋りが功を奏して『ブラッディアース』の発動限界を過ぎたらしい。


「お喋りが過ぎた様だな」


俺は全力でナイフを回避してそのまま前方へと走り出す。

恐らく背後からナイフが追って来る筈だが、どこまで追って来るのかわからないので止まる事はできない。


「なんっ……」


俺は佐間の目の前まで走り、そのまま一気に背後まで回り込んで振り向いた瞬間、佐間の目前までナイフが迫っていた。

殺ったか?

一瞬そう思ったが、ナイフは佐間に刺さる事は無く、全てその場へと落下した。

どうやら、スキルの発動主を攻撃しないか、もしくは、瞬時に意のままに操れるという事なのだろう。

まあ、いい。いずれにしろ俺の手でけりをつけてやる。

俺は背後から剣を佐間に向けて振るうが、佐間も前方へと飛んで回避する。


「おおおあああ〜!」


俺は痛みを無視して前方へと踏み込み追撃をかける為に、更に剣を振るうが俺の剣は佐間を捉える事なく、空を切った。

こいつ、ビッチだが強い……

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