第20話 虫嫌いの勇者

俺達は三人でモンスターを探しに森に入った。


「きゃ〜、ハチですよハチ。きゃ〜ムカデなのです。きゃ〜!」


こいつは一体なんなんだ。

森に入ってからずっとこの調子だ。

森に虫がいるのは当たり前だろう。それがさっきからずっときゃ〜きゃ〜言っている。

最初は冗談なのかと思ってみていたが、どうやら本当に虫が苦手らしい。

虫が苦手な勇者……

勇者は虫にも劣ると言う意味では間違いでは無いが、こんなので戦闘になるのか?

そもそもうるさすぎてモンスターの格好のターゲットにされるぞ。


「おい、そろそろ黙った方がいいぞ。モンスターに目をつけられる」

「はい、わかったのです。きゃ〜、何か何かが足に当たったのです。きゃ〜」

「…………」


こいつは言ったそばから……

しかも何故か俺にしがみついてきている。


「おい、離れろ! こんなところを襲われたらやばい」

「リュートさん、無理なのです。無理無理」

「……お前勇者なんだよな」

「はい、そうですよ」

「…………」


朱音はこんな事はなかったのにこの蒼花という勇者は……

どうしたらいいんだ。

まだモンスターと戦う前からこれでは先が思いやられる。


「朱音、なんとかしてくれ」

「リュートさん、お願いします」

「俺には無理だ」

「そこを何とかお願いします」

「…………」


これならそこら辺にいる普通の女の子の方がマシだろ。

妹も幼なじみも家に出た蜘蛛を叩いて捨てるのなんか何でもなくやっていた。

それがこの勇者は、王女様か何かなのか?

本当に勘弁してほしい。


「きゃ〜、きゃ〜、きゃ〜」


もういい加減聞き飽きた。そろそろ黙って欲しい。


「おい! 静かにしろ。モンスターだぞ」


木の隙間からモンスターの巨体が見て取れる。

あの姿はトロールだが、相手もこちらに気がついているようでこちらに向かって来ようとしている。

それは、この森であれだけ大声で騒いでいたら気付くなという方が無理がある。

それに敵はゴブリンより上位のトロールだ。勇者二人と俺で負ける事はまずあり得ないとはいえ油断すれば怪我ぐらいは負う。


「どうする、俺が先にやろうか?」

「リュートさん! 私がやります。サポートお願いするのです」

「…………」


こいつ蒼花だよな。さっきまできゃ〜きゃ〜うるさく騒いでいた癖にトロールを目の前にした瞬間雰囲気が変わった。


「それじゃあ行くのです『風切り』」


彼女の構えた剣が見えない圧力のようなものを纏ったのを感じる。

これが『風切り』か。

見えない刃。

もちろん素地の剣は見えているが、おそらく纏った風はそれよりも大きい。

見えない刃を振るわれて俺は上手く交わす事が出来るだろうか。

思った以上に蒼花の能力は厄介かもしれない。


「おい、大丈夫なのか?」

「やってみないとわからないので、とにかくやってみるのです。危なくなったら助けてくださいね」

そう言うと、驚いた事に蒼花はトロールに向かって走り出した。

「速い……」

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