第17話 理由2
運んだ食事はいつのまにか食べてくれていたが七日目の朝だった、いつものように扉の前に行くと、一切手をつけられる事なく食事がそのままの状態で残されていた。
「リュカ、どうした? お腹が空いてないのか?」
やはり返事は無いが、胸騒ぎを覚え嫌な予感がした俺は
「リュカ、返事がないなら無理にでも扉を開けるぞ? いいな」
俺はそのまま扉を蹴破って中に入ったが、中には首を吊ったリュカがいた。
「リュカ! すぐ助ける!」
俺は慌ててリュカをその場から降ろしたが、既に息は無く身体が冷たくなっていた。
「ああああああああああああああ〜リュカ、リュカあああああ〜」
妹が、俺の妹が自ら命を絶ってしまった。
あの可愛らしかったリュカが……
「リュカあああああ〜!」
どれだけ呼びかけても、もう戻って来る事は無い。
リュカがこの世から居なくなってしまった。
俺は今までに受けた事の無い強いショックを受けながらもなんとかリュカをベッドまで運んだ。
そこでリュカ同様の状態にあったセリカに思いが及び、リュカをベッドに残し急いでセリカの家に駆け込んだ。
「セリカ! セリカ無事か!」
俺は、セリカの家族は止めるのを無視して部屋の扉を蹴破って中に入ると、先程と全く同じ光景が広がっていた。
セリカもリュカ同様に既にこの世から居なくなってしまっていた。
「セリカあああああああ〜! ああああああああああ〜!」
急いでセリカを降ろすが、セリカも既に身体からは体温が失われており、命が消えてしまっていた。
「おおおああああああ〜、ぐうううううううううああああああああああ〜」
リュカとセリカが、俺の妹と幼馴染みが同時に俺の前から、この世界から消えてしまった……
俺の半身とも呼べる彼女達が消えてしまった……
この時感じた感情は言葉では言い表せない。
絶望? そんな言葉では生温い。
悲しみ? そんな薄っぺらい感情じゃ無い。
恐れ? そんなものではない。彼女達がいなくなってしまった事は俺の持つ全ての感情を凌駕していた。
俺はこの日に俺の世界の全てを失った。
俺は彼女達さえいてくれればそれで良かった。
金や名声、将来の成功が欲しい訳では無かった。彼女達と幸せに暮らしたいだけだった。彼女達とのつつましくも幸せな将来が待っていると思っていた。
それが一瞬にして無くなってしまった。
いや、勇者によって奪われてしまった。
勇者が、あの二人から全てを命まで奪い取ってしまった。
その後二人はその日のうちに埋葬されたが、それでも誰も勇者には逆らえない。
圧倒的な力と特権を与えられた存在。俺達の生活を壊す権利を有した忌むべき存在。
誰もやらないなら俺がやる。
二人の命を奪った報いを受けさせる。
絶対に勇者を殺してやる。
俺の全てを懸けて、命に変えても勇者を殺してやる。
何の罪も無い二人の命を奪って、のうのうと過ごしている勇者を許す事は出来ない。
この日、勇者の全てが俺の敵になった。
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