第16話 理由1
俺には一つ下の妹と幼い頃より一緒に時間を過ごして来た同い年の幼馴染みがいた。
妹の名前はリュカ幼馴染みの名前はセリカ。二人は俺の記憶がはっきりとする前から一緒にいた。
リュカは俺とは違い大きな目で長い栗色の髪の兄の俺からみても可愛い女の子だった。
セレナは金色の短い髪に切れ長の碧眼の美しい女の子だった。
いつも三人で行動する事が多くリュカはセリカの事を姉さんと呼んで懐いていた。
もちろん兄の俺にも懐いていたし、小さい頃はよく一緒のベッドで寝たりもしていた。
俺はリュカの事も大好きだったし、セリカにもいつの頃からか恋心を抱いていた。
セリカも大人になったら俺のお嫁さんになるとよく言ってくれていたので、俺に好意を抱いてくれていたと思う。
ある日俺は街に用があり、朝から出かけていて用が済み夕方になり家に戻ると家が荒らされていた。
「一体これはどうしたんだ? 父さん、母さん何があったんだ」
「リュカが……リュカがあの勇者に……」
「勇者がリュカに何かしたのか?」
「リュカが、襲われて、さらわれた。セリカちゃんも一緒に……」
その言葉を聞いて俺の頭は真っ白になってしまった。
勇者とはこの世界において絶対ともいえる存在。
高いステータスを持ち、モンスターと戦う。その代わりにこの世界で何をしても許される存在。
その勇者が、俺の妹と幼馴染みを襲って攫って行った?
「父さん、どっちだ! どっちに連れて行かれたんだ!」
父の示す方に無心で走ったが、時間が経ち過ぎていたようで勇者に追いつく事は出来なかった。
「クソオオオオオオ〜!」
俺がいればこんな事にはならなかったかもしれない。
勇者と差し違えてでも二人を守れたかもしれない。
それから毎日のように二人の事を探して回ったが勇者と二人の行方が掴める事は無かった。
そして一ヶ月ほど経ったある日、リュカとセリカが戻って来た。
二人は、戻って来ると俺を避けるように、それぞれが部屋に籠もってしまった。あれほど瑞々しい美しさを放っていた二人が、完全に生気を失ったような目をして一言も発すること無く部屋に籠もってしまった。
この時、変わり果ててしまった二人に対し、俺にはかけるべき言葉を何も思いつく事が出来なかったので、時が二人を癒してくれるのを待つしかなかった。
「リュカ、ご飯置いておくからな。しっかり食べてくれ」
俺は、毎日食事を扉の前まで運んでいたが、リュカが姿を見せてくれる事は一度も無かった。
そしてセリカの家にも毎日伺ったが、セリカもリュカ同様部屋に籠もったままで一言の言葉を交わす事も出来なかった。
勇者に襲われ攫われてから一ヶ月もの間どのような扱いを受けていたのか、考えると心が引き裂かれそうになるが、今は少しでも彼女達の助けになりたい。
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