第8話 女勇者

女の子を見ていると、横から黒髪の女性がすっと現れ


「あ〜転んじゃったのかな〜。大丈夫だよ。足擦り剥いちゃったんだね。それじゃあね、お姉ちゃんが今から治してあげるからね。ほら痛いの痛いの飛んで行け〜」


そう言うと女性の手が淡い光を発し傷口にかざすとすぐに傷口が閉じていっているのが見えた。


「ほらもう大丈夫だよ。頑張ったね〜」

「え? もう痛くないよ。治ってる」

「うん、頑張ったご褒美にこれをあげる」


黒髪の女性は女の子にお菓子の様な物をあげている。


「ありがと〜。わたしはミア、おね〜さんは?」

「私はね。朱音、水無月朱音。よろしくね」

「あかね。珍しい名前だね」

「うん、最近遠いところからここに来たんだよ」

「そうなんだね」


この女性……

勇者か。

この女性も俺の倒すべき敵か。

女性の名乗った名前は明らかに勇者特有の名前だった。

傷を治した事といい間違いない。

俺の中に緊張が走る。

この女性は勇者だ。

俺は目の前の勇者の一挙手一頭足を見逃さない様に、目を向ける。

年齢は俺とそう変わらない気がする。

なんとなく亡くなった妹の雰囲気に近いものを感じるので、もしかしたら俺よりも年下なのかもしれない。


「私もこのあたりは詳しくないから、また今度遊んでね」

「うん、わかった」


そう言いながら笑顔で女の子の頭を撫でている。

この女性本当に勇者なのか?

俺の中で疑念が生まれる。

勇者とは傍若無人、この世の法や理をねじ曲げる者。

人を虐げ、己の快楽にのみ興味を示し、この世界を壊す者のはず。

だが、この目の前の女性からはその様な雰囲気が一切感じられ無い。


「あの〜」


突然、目の前の勇者が声をかけて来た。

緊張が走る。


「なんだ?」

「いえ、こちらをず〜っと見ているので何かあるのかと思いまして」

「あ、ああ、すまない。二人のやり取りを見させてもらっていただけだから、気にしないでくれ。特に他意は無い」

「そうなんですね。私の顔に何かついているのかと思っちゃいました」

「気に触ったなら謝る」

「いえいえ、別に大丈夫ですよ。気にしないでください」


この女性、本当に勇者なのか? 先ほどと同じ疑念が俺の中に渦巻く。

この笑顔に裏がある様には思えない。

どうしても俺の知っている勇者達と目の前の女性のイメージが重ならない為に思わず口を開いてしまった


「君は勇者? なのか?」

「え〜っと、多分そうだと思います。まだ来たばかりでよくわからないのですが、そう言われたので」


やはり勇者か。


「そうか……」

「あなたのお名前を聞いても?」

「俺はリュートだ」

「リュートさんですか。私は朱音です。リュートさんは勇者に何か思い入れがあるのですか?」

「どうしてそう思う?」

「だって私が勇者だって言うと、泣きそうな顔になりましたよ」


努めて感情を表には出さないようにしていたはずだが、気取られてしまったのか。

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