1回500円につき。
田仲
こんな私だからさ
昼下がりのとある日も、喫茶店は開いている。
通りすがりに思わず立ち止まってしまう美味しい匂いと、お洒落な外見の喫茶店には 、
握手すれば願いが叶うと言われる、看板娘がいる。
「いらっしゃいませ!」
看板を出しに外に出た彼女がその看板娘である。
「ふう…」
今日も、彼女は願いを叶える。
「知美さーん!」
「あぁ看板ありがとね」
店主の知美さんに話しかける。
かれこれ5年の付き合いだけど、さん呼びは直らない。
それも歳が7歳離れていて、来年で三十路になる知美さん。
実は料理教室を本業でやっていて、
この喫茶店は副業に過ぎないのだ。
だから昼下がりから夜6時まで、5時間の間しか営業していない。
まあ学生だった時には都合が良かったけど。
「あ、いらっしゃいませー」
扉の鈴がカランコロン、と鳴って
キリッとスーツを着た方が入ってくる。
「あの…握手したら願いが叶うと言うのは…」
「あぁ、それならこっちの娘ですよ」
「良ければコーヒー用意しておきますね」
「ありがとうございます…わざわざ」
「まず…お話を聞いても良いですか?」
「はい…」
と話し始める男性。
「実は先月祖父を亡くしたのですが、
その祖父が中々の大富豪なもんで…」
「遺産相続について色々揉めているもので…」
「…それは」
「どうしてもお金が欲しいと?」
思ったことを素直に、鋭い質問を投げかける。
「いえ…実はですね、会ったこともない遠い遠い親戚が遺産を貰おうと弁護士を立ててしまいましてね…」
「私の両親は生憎他界していて、正当な相続権は孫の私に来るものですが、昔から良くしてもらった祖父の財産はよく分からない人に譲りたくないんですよ…」
俯きがちで話す男性。
「……そうですね」
「その場合こちらも弁護士を立てるというのはどうでしょうか?」
「あまり大事にしたくないもので…」
「……分かりました」
「ここに手を置いて下さい」
「そしたら私がその上から手を重ねます」
「そしたら詳しく、願いを唱えて下さい。いいですか?」
無言で頷き、机に手を重ねた後、
「大切な祖父の遺産を、赤の他人に盗られませんように」
「…はい」
ありがとうございました、と足早に去ろうとする男性。
多分昼休憩かなんかで来てるんだろう。
「ちょっと待ってください」
「1回、500円です」
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