第5話 操力術
『そもそも、操力術とは何か?』
—————————
巨体のハイオーガが真正面から向かって来る。
オーガならば戦ったことがある。確か1年前、16歳の頃、操力術の試練として危険な地域にサグノアおじさんと行ったときだ。ひたすら肉弾戦を仕掛けてくる、シンプルに手強いモンスターであった。
振り下ろされたハイオーガの右腕を左手で押し、外側に逸らす。
「シッ———」
その後、がら空きの顎にアッパーカットを放つ。油断していたさっきまでとは違い、吹っ飛びはしないものの顔が跳ね上がり、拳がめり込む。
ハイオーガはその体制から、いつの間にか振り上げていた左手で俺の頭を殴りつけた。
左腕を地面につき、顔面が上に向いた不自然な体制で、十全な威力の発揮されない殴打。それでも圧倒的な肉体スペックにモノを言わせたその一撃は、人間ごとき容易く弾くはずで——————
「———ッ!?」
——————俺の左手によって止められた。
必然、ハイオーガの警戒も高まる。
すぐに、俺の左手を振り払い、距離を取——————
——————ろうとしたので脇腹を蹴りつけた。
ハイオーガは、吹き飛び、草むらに転がり込んだ。
一見、俺の圧倒的優勢。通常、この状態はおかしい。
いくら俺が身体強化しようと、身体能力でハイオーガに並べるはずがない。
身体能力で、大きく水をあけられているのは分かっているし、ハイオーガもそれは理解しているだろう。だから、あんな雑な攻め方をしてくる。
勿論、魔力による身体強化と共に、もうスキル『支援』も自分にガン掛けしている。だが、それでも尚、差を埋めるには至らない。
その差を埋めるのが、操力術である。
操力術とは、武術や体術の類ではない。スキル術とでも言うべきものである。
身体強化スキルには、様々な種類がある。
シンプルなもので、
『力』『速さ』『硬さ』など。
もっと細かいものだと
『脚力』『腕力』果てには『指力』なんてものもある。
何も持っていない者でも、一応、魔力で身体強化を行うことができる。
その強化を一瞬だけ、敵に触れる時、敵との距離を詰める時、敵の意表を突く時、敵の攻撃を防御する時、に限界を超えて行うことで、戦う。
より短く。より適切なタイミングで。より適切な強化を。
それが、操力術の唯一の教えである。
便宜上、その限界を超えた強化は、超強化と呼ばれている。
スキルの超強化は、勿論、容易いことではない。
スキルの発動を短縮するのは、一朝一夕ではできない。出来ても、慣れなければ、実力相応の身体強化すら発揮できない。さらに実力以上なら尚の事。
戦闘中に変化する力やスピードに振り回されてもいけない。
だが、その強さは一目瞭然である。身体能力で大きく負けているはずの俺が、あのハイオーガ相手に、互角以上にやれる程。
その俺ですら道半ば。サグノアおじさんは操力術の力のみでSランク冒険者となった。
当然、デメリットもある。
性質上、超強化していない状態は無強化に等しい。そのため、意識外の一撃に弱い。また、一瞬でもタイミングや力加減を間違えると、格下相手にも負ける恐れがある。格上なら瞬殺されてしまうだろう。
さらに、ほんの一瞬とはいえ、イレギュラーでとてつもない強化をされる肉体は、当然悲鳴をあげる。しかし、俺達、操力術の使い手は、それに耐えるために修行している。
——————それに耐えられなければ、この場には立てない。
まだ様子見とはいえ、ハイオーガと正面から打ち合える程の強化をした。その代償として、俺は相応の痛みに耐え、この場に立っている。
まだ、耐えられる。
身体を巡る力を調整する。出来るだけ負担の少ないように。
「……ん?」
奴の雰囲気が変わった。
草むらの奥にいるのに、殺気が良く分かる。
ハイオーガが目を血走らせて手前の草木を殴り飛ばす。
「アアアアアアアアアッッ!!!」
草むらから出てきたハイオーガは、完全に切れていた。今にも襲い掛かりそうだ。
威圧感が増した。
さっきまでの戦闘では、やはり奴は本気をだしていなかった。
本当の戦いは、ここからだ。
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