第3話 胸騒ぎ
高らかに響く笛の音。長く伸びるようなこの音は、
『戦闘終了』
の合図だ。
「……終わったのか」
戦闘が始まり、10分強、結局、俺が見張っていた最後尾には、モンスターは1体も来なかった。馬車に乗っている人達も強張っていた顔を緩ませ、戦後の処理を始める。
クレイク達の活躍により、モンスターは全て討伐された。クレイクのパーティにも、深手を負った者はいない。この手際にこの強さ、Bランク冒険者パーティにしてはやはり上手過ぎる。クレイクの言っていた『訳あり』は、確かに本当だったようだ。
後から聞いた話によると、謎の気配の正体は、ハイドゴブリンというBランクモンスターだったそうだ。
ハイドゴブリンは、音や匂い、魔力などの気配を操る能力を持っていて、奇襲を得意とするらしい。しかし、ハイドゴブリンは自身の姿を誤魔化すことは出来ない上、今回は事前に奇襲を警戒していたので、特に問題なく倒せたそうだ。
全ての作業が終わった頃には、空もだいぶ明るくなり、そのまま街に向けて出発することになった。昼前には街へ着くだろう。1週間近くかかった今回のクエストも今日で終わりだ。
俺は、5つある馬車のうち、最後尾の馬車に乗り込んだ。クレイク達は先頭の馬車に乗っている。彼らが前方の索敵をし、万が一後ろから追ってくるモンスターが居た場合、俺が相手をする、という布陣だ。
しかし、この森には好戦的なモンスターが少ないため、俺のこの役割は必要ないと思っていた。
実際、その出番は今回のクエストで1度もなかった。夜の見張りや休憩時の接敵もほとんど無く、戦闘回数は、片手で数えられる程少なかった。
それは安全面においては良いことではある。しかし、個人的な感想としては、今回のクエストはとても暇であった。普段ずっと戦いに身を投じている分、体がソワソワして仕方がない。
だが、それとは別に胸騒ぎがする。
俺は、馬車に揺られながら、さっきの状況を振り返る。
「……………」
奇妙なことになってきた、と思う。偶然とは言い難い。
クエイクの話によれば、ハイドゴブリンは、王都から北にある『死の樹海』の固有種であるという。つまり、ここに居ることは、本来あり得ない。
さらに、モンスターの不可解な集団行動。ゴブリンが2~3体で獲物に襲い掛かることは稀にあるが、普段はゴブリン同士、お互いに対立し合う習性を持つ。その上、別の種族であるゴブリンとオークがこの規模の集団を作り上げることなんて、何か特別な理由がなければ考えられない。
モンスターの生態系の変化?ダンジョンの出現?それとも人為的な何か?
理由はいくつか考えられるが、どれも確定には至らない。
だが、俺を含め、『魔法泉の森』の適正レベルより優秀な人材が居たから良いものの、本来、死人が出てもおかしくはなかった。
何にせよ、街に戻ったら、この異変は冒険者ギルドに伝えなけれ———、
「————————————ッッッ!!!」
突如、森に轟音が響いた。
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