ゲームの悪役令嬢に転生したけど、特に何もせずお金持ち生活を堪能しようと思います。
秋月
第1話 悪役令嬢は前世の記憶を思い出しました。
その日は私の大好きなゲーム『マジックエコール』の公式設定資料集の発売日だった。
近くの本屋じゃ取り扱っていなくて、丁度学校が休みの土曜日だったから電車に乗ってアニメやゲーム関係を専門に扱うお店へ。ちゃんと事前に電話確認したし何なら取り置きまでしてもらった。
早く買いたくて少しでも早くお店に着きたくて急いで歩いていたら……。
「おい、危ない!! 逃げろ!!」
「え?」
急に上から声が聞こえて、思わず立ち止まって見上げてみたら鉄骨が私の方に落ちてきていた。いきなりの事に逃げる事も出来ず立ちすくんで、そして……。
******
そんな前世を私は唐突に思い出した。
きっかけは簡単。
第一王子のビオロ様に会いにお母様と一緒に城へ向かおうとした時、通りかかった木の上からどんぐりが頭に落ちてきたから。
どんぐりは小さいから当たっても痛くなかったけど、その瞬間前世の記憶が一気に流れ込んできて思わず座り込んでしまった。
「エグレット、大丈夫?」
「っ! あ、はい、大丈夫、です……」
身体は何ともないけど今までの記憶と前世の記憶がごちゃ混ぜになって正直出かけるどころじゃない。
お母さん……お母様? には悪いけど、出かけるのは止めてすぐさま部屋に引きこもった。
しばらく一人になってようやく落ち着いてきた気がする。
おかげでここがどういう場所なのかも分かってきた。
今の私はミュレー公爵の一人娘エグレット・ミュレー。現在十歳。
会いに行こうとしていたのはこの国の第一王子ビオロ。
この名前は嫌という程知っている。そして鏡で私の顔を見て確信した。
ここ、私がハマってハマってやり込みまくっていた『マジックエコール』の世界だ……。
エグレットはそのゲームのライバルというか悪役令嬢。
私はゲームの悪役令嬢に転生してしまったのか……。
『マジックエコール』は女性向けの育成シミュレーションゲームで、主人公は魔力を持っている者は必ず入学する決まりになっているマジックエコールに入学するところから始まる。
そこから三年間学園内で魔術や武術を極めたり、恋愛したりするマルチエンディングなゲームになっている。
このゲーム、人気は高いのだけど評価は真っ二つに分かれていて、原因がこのエグレットだったりする。
エグレットは序盤から登場してライバルというか結構妨害してきてこの時点でもかなり問題なんだけど、特に酷いのは中盤以降の攻略キャラのルートに入った時。
どの攻略キャラを選ぼうとルートが確定した瞬間にエグレットは恋愛でのライバルになる。
最初は使い回しだ手抜きだとゲーム自体の評価が低かったけど、プレイしていく内に攻略キャラとのイベントの多さや攻略キャラ同士のサブイベントなどが豊富にあって、しかもライバルは同じだけどイベントの展開は全て違う。
勿論オマケも回想モードやアルバム、アイテム図鑑など充実していてこれだけイベント関係に力を入れているならまあ……と言った感じに高評価に変わっていった。
その代わりに全攻略キャラと恋愛ライバルになるエグレットがプレイヤーから男好きだの何だの叩かれまくって嫌われる結果になってしまい、それがそのままゲームの低評価に繋がってしまっている所もある。
一応エグレットは確定ルートに入るまではそのキャラに好意を寄せているという話は出ないので男好きというわけじゃないのだけど、そこに至るまでの共通ルートで妨害イベントを頻繁に起こしてくるのでそれが原因かもしれない。
かくいう私もこの妨害イベントには物凄くイラついた。
このゲームは色んな場所へ行きそこにある施設を利用したりキャラと会話する事で好感度や教養とかのパラメーターを上げたりするのだけど、エグレットが登場すると一日そこの施設を利用出来なくされたりランダムでパラメーターを下げられたりして、コレが原因で条件を満たせず狙ったエンディングに行けなくなったり最悪ゲームオーバーになる。
多分他のプレイヤー達もこれが原因でエグレットを嫌っていると思う。
正直キャライベントでエグレット出てくるよりもこの妨害イベントの方がよっぽど悪役だったし。
そしてスタッフもそこは分かっているのかエグレットは終盤退学になるのだけど、主人公のやりようによっては身分剥奪からの国外追放にしたり、ここでも多種多様な退場方法がある。力の入れどころが違う気がするけどこういうのは嫌いじゃない、むしろ好きだよ、対象が私でさえなければ。
ちなみに一番軽くて退学。
でも妨害イベントのせいで退学だけで済ませる人は少ないと思う。
それに攻略キャラとの恋愛エンドを迎えるとキャラによって身分剥奪か国外追放、騎士団や宮廷魔道士エンドでも同じ結果になって、一番穏便な退学だけになるのは地味に難易度が高いというか、主人公が誰とも恋愛関係にならず何処にも仕事につかないただ卒業するだけのいわゆるノーマルエンドでしかなかったりする。
思い出していたら何か無性にやりたくなってきた。
全パラメーターMAXとか、アイテム全種所持とか無駄に縛ったり極めたりして遊んでたしなあ。
…………。
うん、現実逃避しても仕方ないか。
私は、その、プレイヤー達から嫌われまくっている悪役令嬢エグレットに生まれ変わっちゃったのか……。
いきなり前世の記憶十五年分が一気に戻って混乱していたけど、落ち着いてくると今まで生きてきた十年間の記憶も馴染んできたような気がする。
一瞬退学になっても死ぬわけじゃないし国外追放されたら自由に生きられるからいいかなとか思ったけど、ただでさえ貴族社会は前世でいう政治家みたいに足を引っ張りあって少しでも不利な部分を見つけると徹底的に責めたてられるのにそんな事になったら私だけじゃなくて両親や家にまで迷惑がかかっちゃう。
……あれ、でもこれって主人公を苛めなくて、攻略キャラを好きにならなければ何の問題もないんじゃない?
いやでも私の本命キャラを好きになるなとか何ていう拷問? ……でも公式だとビオロルートが正式っぽいし大丈夫かな。
だってパッケージも中央にいるし、公式サイトでも攻略キャラの紹介は一番最初だし。ちなみに私の本命キャラは最後に紹介されていた。
なら私が一番警戒するのは主人公かな。
学園入学は避けられないから、とにかく主人公と接触せず妨害というか邪魔をしなければ退学する事もないし身分剥奪も国外追放だってされない筈。
おお、何かいける気がしてきた。
「…………」
問題もすっきり解決して、改めて部屋を見れば見るからに高そうな鏡台に中を見れば髪飾りやら装飾品が沢山。
クローゼットにもこれでもかと言うほど衣装が入っていて、ベッドは漫画やアニメでしか見たことがないいわゆるお姫様ベッド。
貴族社会は大変だけど、せっかくお金持ちの家に生まれたんだから贅沢三昧な暮らしを思う存分楽しんじゃおう!
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