第35話 力の根源

「極端に言ってしまえば、私達の力の根源は『思い』と『言葉』なんだ。私達はそれぞれが『ある存在』を媒体にして、それらを一緒にして発動する感じなんだけど……」


 ゆっくりと人差し指で宙に円を描きながら、品子が話すのをつぐみは黙って聞いていた。


「私達の力はね、思いの強さで変わってくるんだ。例えばある人の力は、一時的に人の記憶を操ったり消したりできる。その力を思いっきり使うと……」


 手のひらを大きく広げ、つぐみの前に出してきた。


「相手の記憶を、全て消すことも出来ちゃう。さらに言えばその人の生きる気力とかも消すことも出来ちゃう。ばーんってね」

「そんな力まで存在するのですか。何もない自分には、すごい力だとしか」


 驚くつぐみをちらりと見て品子は続けていく。


「でも、使いすぎは自分にも危険となる。反動まではいかなくても、強く使えば自分にも負担がかかる。自分の能力に見合わない力を使おうとすると、自分も壊れちゃう」

「壊れる、つまりは死んでしまうのですか」

「そこまではいかない。でもそれに等しい状態といえるね」


 それだけ危険なものを持ち続けるとは、どれだけ大変なことか。

 自分には到底、抱えきれないだろうとつぐみは思う。

 

「また別のある人は事故で力と身体能力を失ったんだけど、思いの力でその一部を取り戻している。すごいよね。そこまでいくと執念に近いんだろうけど」


 指を閉じたり開いたりしながら語る品子の顔は、少し悲しそうだ。

 その人を、思い出しているのだろうか。

 つぐみは品子の表情でそう推測する。


「ざっくり言っちゃえば、私達の力は『思い』、いやそれよりも強い『おもい』で発動可能になるといった方が近いかもね。……さてと、話がそれてしまっていたね。本題に戻そう。どうやってその店を探そうか」


 重かった雰囲気を変えるように、品子はくるりと表情を変える。


「確かに、強い思いを持って店を探すってどうやればいいんでしょうね?」


 つぐみの問いかけに、品子は拳をぐっと握るとつぐみを見つめた。


「店! 見つけてやるぞ! この野郎! な心意気で探せば見つかるかなぁ?」

「な、何となくですが、多分それでは無理だと思います」

「品子、これってやっぱり惟之これゆきさんに一度みてもらった方がいいんじゃないの?」


 少し前にリビングに戻ってきたヒイラギが品子へと聞く。

 

「これゆきさん? みてもらう?」


 ヒイラギの意見とつぐみの言葉に、品子はあからさまに表情を変える。


「えー。あいつに頼むのやだー、言い出しっぺのヒイラギが依頼を出してよ」

「何が言い出しっぺだよ。お前、絶対わかってたけど、口に出さなかっただけだろ」

「あの、惟之さんって一体?」

「あぁ、惟之っていうのはさっき言ってた解析組のリーダー。すっげぇ意地悪で、私にいつもひどい扱いしてくる、極悪非道ごくあくひどうの垂れ目人間なんだ」

「知らない相手なのをいいことに、嘘を言ってんじゃねーよ。あんた騙されんなよ」


 わいわいと言ってくる二人につぐみは戸惑う。

 そんな時、廊下からつぐみへと声が掛けられる。


「つぐみさん。お風呂どうぞ」


 その言葉と共に、シヤがリビングに入って来た。


「あー! 湯上りのシヤは、やっぱりかわいいねぇ!」


 品子はシヤの傍に駆け寄ると、すごい勢いで頬ずりを始める。

 かなりの速さの、頬ずりだ。

 それなのにシヤは、それを無表情に受け入れている。


「洗面台に、品子姉さんのお泊りセットを一つ置いておきました。それを使ってもらえばいいんですよね?」

「うん、そう。冬野君、遠慮なく使ってね!」

「あ、ありがとうございます」


 高速頬ずりを続けている品子を後にして、洗面台に向かいながらつぐみは思う。


 ――帰ってくる頃には、シヤの首は取れているのではないだろうかと。

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